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こんなミュージシャン力の高いバンド、今は他にいないんじゃないか

――ママズ・ガンのどこに、そこまで惹かれるのでしょう?

「新作『Cure The Jones』に関しては特に、テンポがすごい。どの曲もそうですが、普通のポップスのBPMからは逸脱していると思っていて、こんなユルいテンポ、とにかく演奏がウマくないとできないんです。

『Cure The Jones』収録曲“Good Love”

少し前、同世代のミュージシャンと組む別バンドでツアーに出ていた時に、『Golden Days』を皆に聴かせて。みんなハマっていたんですけど、クチを揃えて言うのがやはり〈テンポがヤバい〉ということ。こういった曲が体に染みついているミュージシャンでなければプレイできないテンポで。日本人でこれが出来る人、いるのかなって。

再度シルク・ソニックと比べると、彼らはバンドではないですから。達人を揃えて録音している。でも、ママズ・ガンはバンドですからね。こんなミュージシャン力の高いバンド、今は他にいないんじゃないかと思うくらい。現代のバンドで、フレージングに新鮮味を覚えるとか、アカデミックさを感じるといったことはなかなかないんですけど、ママズ・ガンにはそれがある。〈こんなフレーズ、聴いたことない〉というものではないんです。ちゃんとソウルマナーにのっとったもので、どこかで聴いたような節回しもあるんですけど、それを古く聴かせないのは録音の妙でしょうか」

――新作は特に、オールドソウルマナーではあるけれど、今でしか聴けないサウンド、音像が素晴らしいですね。

「彼らコロナ禍で、配信ライブをやっていたんです。YouTubeで観れますが、メンバーみんな自宅で、リモートでやっているのにレコードと全く同じ音を出していて、それも衝撃でした。僕らも配信ライブをやったのでわかるんですけど、自宅であんなにいい音を出されると、もう落ち込むしかないというか。山下達郎さんのライブを観に行った後と同じ気持ちになりましたね。

オールドスタイルのソウルミュージックって、音が良くないと説得力を持たないジャンルだと思うんです。古ぼけていることや、アナログテープで録るといったことではなくて、どこにこのジャンルの旨味を感じ取るのかという、センスの問題だと思います。ママズ・ガンは、特にベースの音なんて完璧。こういう音楽をやるにあたっての、理想のサウンドのひとつだと思いますね」

 

ママズ・ガンは僕がベーシストとしてやりたいことを突いてくる

――ベースのキャメロン・ドウソンは、4枚目のアルバム『Cheap Hotel』からバンドに加わりましたが、彼が入ってからオールドソウル路線が強化されるようになりました。

「うまい、お手本になるようなプレイヤーは国内外問わずたくさんいるんですけど、このキャメロン・ドウソンは特別ですね。ヴルフペックのベーシスト、ジョー・ダートも、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー以来、数十年ぶりに現れたベースヒーローといった感じですごい人気ですが、彼らはまた違う文脈にいるバンドで。ママズ・ガンは、僕がバンドで、またセッションベーシストとしてやりたいことを、すごく突いてくるんです。

『Golden Days』はコロナ禍にあって、何度聴いたかわからないアルバム。新作からのリードシングル“Party For One”も、彼らの溢れるオールドソウル愛が伝わってくるようで、いいなあと。シングルのカップリング曲“Looking For Moses”も、これもうビル・ウィザーズじゃんって。ビル・ウィザーズのような音楽をやっている人、今は他にいないなあと。音楽愛に溢れる感じをちゃんと作品に表せるのは、簡単ではないことがよくわかるので、やはり並外れた才能だと思いますね」

『Cure The Jones』収録曲“Party For One”“Looking For Moses”

――新作でキャメロン・ドウソンはより、モータウン・サウンドの代名詞的なベーシストだったジェイムズ・ジェマーソン的なプレイを聴かせますね。

「60〜70年代の音楽をルーツとするベーシストには、ビートルズでのポール・マッカートニーのベースと同じくらい、ジェイムズ・ジェマーソンのベーススタイルはスタンダードになっています。

なので僕も含めて、ジェマーソン的なスタイルに影響されたベースプレイヤーはごまんといると思いますが、キャメロン・ドウソンほど自身の作品にハメるのがうまい人はいない。ルート音からいかない、高い音から降りてくるジェマーソンの手ぐせを、新作でもキャメロンは多用しています。ジェマーソンからの影響をカッコよく体現できている人は、実はあまりいないんですよ」