ヤング・ガン・シルヴァー・フォックスのボーカリストとしてもおなじみのアンディ・プラッツ。彼が率いる、イギリスの5人組バンドがママズ・ガンで、前作から5年ぶりとなる6枚目のアルバム(オリジナルアルバムとしては5枚目)『Cure The Jones』がついにリリースとなった。

ベーシストに次いでドラマーのメンバーチェンジも経てつくり上げた前作『Golden Days』は、ビートルズやELOといったUKポップの後継者でもあったママズ・ガンが、ソウルバンドとして再出発を果たした力作だった。しかし、さあこれからという時、コロナ禍がバンドを襲う。

それでも、世界的なパンデミックの出口が見え始めた今、彼らはさらに強力なソウルを携え、帰ってきた。ママズ・ガンに「理想的な現代ソウルバンドの姿を見る」と言う、OKAMOTO'Sのハマ·オカモト氏に、バンドと、新作の魅力を存分に語ってもらった。

MAMAS GUN 『Cure The Jones』 Monty Music/Candelion/Pヴァイン(2022)

 

シルク・ソニックが高く評価されてママズ・ガンがされないのがわからない

――まずは、ママズ・ガンとの出会いから、教えてください。

「彼らのデビューアルバム『Routes To Riches』が出たのが2009年で、僕ら、OKAMOTO'Sがデビューしたのは2010年なんです。ただその頃も変わらず、僕はレコード店に通い詰めていて、ママズ・ガンを知ったのもレコード店の店頭でした。

2009年作『Routes To Riches』収録曲“Pots Of Gold”

2010年代になってから、ヴィンテージソウルといった呼ばれ方で、60年代、70年代のスタイル、テンションで今のバンドがソウルやファンクをプレイする、といったムーブメントがそれまで以上に注目されました。ネオソウルとはまた別の動きとしてですね。その中でベイカー・ブラザーズなどは大好きでしたが、僕は実は総じてダメだったんです。それだったら、60〜70年代当時のレコードを聴くなあと。今こうしたソウル、ファンクのテイストを、おもしろいものとして聴かせるのは難しいんだと、思っていたんですね。

なのでママズ・ガンも、デビューアルバムから知ってはいましたが、まだその良さを十分には理解していませんでした。音楽は出会う、聴くタイミングが本当に大事だと思うんです。年齢だったり、その時々の自身のコンディションでも聴こえ方は違いますし。だから彼らと出会うには、2009年では早すぎたんでしょうね」

――すると、あらためてママズ・ガンに注目したのは、何がきっかけだったのでしょう?

「僕が、ママズ・ガンすごい!と、決定的にハマったのは、2017年の5枚目のアルバム『Golden Days』でした。サブスクのおすすめプレイリストに入っていて、収録曲のひとつを聴いたのですが、びっくりしましたね。あまりにも音が良くて。

2017年作『Golden Days』収録曲“You Make My Life A Better Place”

録音の良さと、そしてソングライティングの良さですね。彼らの曲からは、挙げたらキリがないほど、多くの名作レコードからの影響がうかがえます。歌い方であるとか、曲づくりの面で。ただ、多くの似たスタイルのバンドの先を行っていると思えるのは、オールドソウルのマネに終わらない曲の良さ、音の良さがあるからなんです。それがないと、先ほども言いましたけどオールドソウルそのものを聴いていればいいとなってしまうわけで。ママズ・ガンはちゃんと、今聴いておもしろい音楽をやっている。そこが最も重要ですね」

――古き良き音楽を受け継ぎつつも、今しかできない音楽をやることが大事というのは、多くの先輩ミュージシャンもおっしゃられることですね。

「2010年代に入り、ダフト・パンクの『Random Access Memories』(2013年)が出て、ブルーノ・マーズがポップなソウル路線で名を上げて、普通のリスナーの間でもソウル/ファンク慣れが進んだように感じています。そういった時代の、音楽シーンの流れの中で、一番自分にハマったのがママズ・ガンなんですね。

例えばシルク・ソニックは、もちろん素晴らしいなと感じつつも、学術的、理論武装的なものも感じるんです。こう来たらこう、といった緻密なつくり方に。チャートに載るような曲のつくり、設計図だなと。

僕はなので、シルク・ソニックがあれだけ高く評価されているのに、ママズ・ガンがなぜ同じように評価されないのか、わからない。まあ、ママズ・ガンには圧倒的なイナタさというか、僕らと同じ匂いがあるんです。音楽の愛で方に僕らと同じところを感じていて、そこが愛すべきところでもあり、大メジャーにはなりきらない理由でもあるのかなと」