©Hollie Fernando

 「何もかも凄く昔のことみたいに思える」(リアン・ティーズデイル)、「デビューからいままで自分たちにとっては初めてのことばかりだった」(ヘスター・チャンバース)……とこれまでの足取りを振り返る彼女たち。当事者たちがそう語るのも納得の状況が、ウェット・レッグの現在を力強く後押ししている。昨年6月のデビュー・シングル“Chaise Longue”でドミノから登場するや一躍メディアの大絶賛を浴びて注目を集めたこの英ワイト島出身のロック・バンドは、フェス出演やセカンド・シングル“Wet Dream”によって話題の遠心力を大きく高め、BBCの〈Sound Of 2022〉で第2席に選ばれるまでに躍進。控えめに言っても現行UKシーンにおける最有望新人と目されることとなった。

 「こんなに親密な友達同士で一緒にバンドを始めたのは、それまで所属していた他のバンドに比べて本当に清々しい経験だった。私たちは助け合いながら危険を冒している」(ヘスター)。

 2019年に結成に至ったウェット・レッグだが、もともと大学生の時に出会って親友になった2人はフルタイムの仕事に就きながらそれぞれバンド活動をしており、フェスの舞台やオフステージで多くの季節を共有してきた仲だったという。

 「とても楽しい時間だった。あの経験があったおかげで、いよいよウェット・レッグを始めるというときには、自分たちがどういう音楽を作りたいのかが明確になっていたと思う」(ヘスター)。

 「自分たちが過ごした夏を何度も繰り返したいと思った。つまり、あの夏の環境とか気分に相応しい音楽を作りたくなったんだと思う。何しろそれまで私たちが所属していたバンドは、ほとんどの場合、自分たちの活動を深刻に考えすぎているところがあったから」(リアン)。

WET LEG 『Wet Leg』 Domino/BEAT(2022)

 すなわち自分たちに深刻さはないということだ。そうした軽やかさの無邪気な表明がこの手のバンドに取り憑いたロマンティックな常套句だとしても、このたびリリースされるファースト・アルバム『Wet Leg』に彼女たちが刻み込んだ眩しさは失われることはないだろう。大部分のプロデュースを手掛けたのは現行シーンの立役者たる名匠ダン・キャリー。彼女たちが事前に自宅でGarageBandで作っていたデモは「とても断片的な音源ばかりだったけど、あちこちからアイデアを拾ってくるには充分な内容だったし、そこにはすでにはっきりとわかる個性があった」(リアン)そうで、それらを基盤に大半のレコーディングは昨年4月にダンのスタジオで行われたという。つまり、“Chaise Longue”で世界が彼女たちを知る前にすべての仕込みは終わっていたのだ。

 「『Wet Leg』はもともと愉快なアルバムにするつもりだった。女性って、いろんなことを課せられて、どれだけ見た目がきれいでイケてるかってことが唯一の価値みたいになってしまうことがある。でも私たちはもっとヘンテコで、ちょっぴり行儀が悪いこともしてみたい。みんなが踊れる曲を書きたいし、楽しい時間を過ごしてほしい。たとえずっとそればかりってわけにはいかなくてもね」(リアン)。

 デビュー時のプレスリリースには2人が影響を受けたアーティストとしてロネッツ、ジェーン・バーキン、ビョーク、タイ・セガールといった名前が挙がっているが、そうしたリストにも頷けるシニカルでファニーでロウでパンキッシュなポップネスは、簡潔にしてキャッチーな幕開けの“Being In Love”からアルバム全体を覆っている。夢心地のラウドネスが不安定な詞世界とハレーションを起こす“Angelica”、デヴィッド・ボウイ作法のリフが印象的な“I Don't Wanna Go Out”、悔恨や憂鬱や幻滅を匂わせた内省的な言葉も彼女たちのリアルだろうが、それでも全編を包み込む絶妙な楽しさこそがこのバンドの確たる個性だろう。どの曲のメロディーもコーラスもビートもいい感じの空気感を醸し出している。

 「作りたかったのは楽しい曲。悲しい気持ちに浸ってばかりじゃなく、楽しく聴いたり演奏したりできる曲を書きたかったの。とはいえ、悲しみも滲み出てはいるけど」(リアン)。

 そうした親しみやすい歌世界はもちろん、ヘスターがデザインしたバンドのロゴやシングルのアートワークに使用された絵画、本人たちが監督したMVなどもウェット・レッグの在りようをシンプルに伝えてくる。その世界観をとりわけ印象的にヴィジュアライズしているのは、2人のグッとくるスナップを用いたアルバムのジャケだろう。

 「使ったのは私とヘスターの写真で、ステージを降りた直後に撮ったもの。私が彼女の腰に腕を回して、彼女が私の肩に腕を回して、2人とも身体を前に屈めている……」(リアン)。

 「……まるで互いに秘密を打ち明け合っている、あるいは2人で密かに世界征服を企てているみたいにね」(ヘスター)。    

 


ウェット・レッグ
英ワイト島で結成されたヘスター・チャンバース(ヴォーカル/ギター)とリアン・ティーズデイル(ギター/ヴォーカル)から成るロック・バンド。もともと島の大学で出会った友人同士で、互いにバンド活動をしていた両名によって2019年に結成される。ドミノと契約し、2021年5月のデビュー・シングル“Chaise Longue”を配信リリース。同曲が各メディアで絶賛されたのを受け、さまざまなバンドのツアー・サポートやパフォーマンスでも大きな注目を集める。同年9月のセカンド・シングル“Wet Dream”を経て、BBCの選ぶ〈Sound Of 2022〉にもラインナップ。今年2月の“Angelica”も話題となるなか、ファースト・アルバム『Wet Leg』(Domino/BEAT)を4月8日にリリースする。