
デビューと同時に絶大な成功を収めたあの2人が、数多くの経験と熱気を共有して5人組バンドに進化! 多面的な愛を宿した新作が物語るその刺激的な現在地とは?
変わらず持っている精神
「100%満足しているから、完成してリリースできるのがすごく嬉しい。私だけじゃなく、メンバー全員が同じ気持ちなんじゃないかな。前作がいい結果を出せたから、今回のアルバム制作には本当に興奮して5人で一緒に取り組むことができたのも良かったと思う。正直、私は個人的に少し心配していたんだけれど、実際に始めると本当に楽しかった」。
野心作、意欲作、挑戦作、何でもいいが、とにかく文句ナシのセカンド・アルバム『moisturizer』を完成して、リアン・ティーズデール(ヴォーカル/ギター)は率直にこう語る。彼女とヘスター・チャンバース(ギター/ヴォーカル)によって英ワイト島で結成されたウェット・レッグ。ヘスターの祖父の長椅子に座ってリアンが一晩で書いたという2021年のデビュー・シングル“Chaise Longue”が大きな評判となり、翌2022年のファースト・アルバム『Wet Leg』は全英/全豪1位を獲得、日本でも大きな話題となった。その後のグラミーではアルバムとシングルがオルタナティヴ部門で受賞、ブリット・アワードでは最優秀新人賞と最優秀グループのに2冠に輝き、音源は5億回超のストリーミングをカウントするなど、数字の面でも申し分ないどころじゃなく華々しい結果を残している。
そういった周囲の状況だけでなく、バンドそのものも大きく変化した。もともとフェスで演奏を楽しむためにリアンとヘスターが結成したバンドは、ジョシュア・モバラキ(ギター/シンセサイザー)、エリス・デュランド(ベース)、ヘンリー・ホームズ(ドラムス)と共にツアーを重ねるなかで、 タイトな一体感を備えた逞しいライヴ・バンドへと進化してきたのだ。長くサポートを務めた3人は今年から正式メンバーに名を連ねているが、そうなる前から5人で重ねてきた経験とバンドとしての成長は、レコーディングが持つ意味をも変えることになったようだ。
「私たちが常に持っているヴィジョンは、曲を演奏する時に何かを感じること。だから、ライヴで演奏するのが楽しい曲を作ることは私たちにとって重要で、それはバンドを結成した時から私たちが変わらず持っている精神の一つでもある。私とへスターがバンドを始めたのは、ただフェスで楽しいライヴ演奏がしたかったからだしね。でも当時の私たちは本当に無知で、ツアーで得られる感覚がどんなものかというのをまったく知らなかった。でもいまは曲を書いたりデモを演奏している時点で、すぐにその感覚やエネルギーを感じることができるようになったんだ。今回作業していて、それはすごくクールだった」。
そんな感覚から生まれた『moisturizer』では、初作の大半で絡んだダン・キャリーをふたたびプロデューサーに起用。具体的な楽曲制作は、2024年3月にサウスウォルドで行われた合宿形式のセッションから始まったという。
「ツアー中はやっぱり曲が書けなくて、だから2023年11月にツアーを止めて、しばらく落ち着くことにしたんだ。クリスマスを過ごして、そこからさらに1か月休んで、また1か月休んで、3月にやっと次のアルバムを作ろうってことになった。そこから皆で一緒に旅に出て、すべての機材を田舎にある家に持ち込んでセットアップした。ジョシュアは優秀なプロデューサーで制作スキルも抜群だから、彼が指揮してくれて、ジャム・セッションをすべてマルチで録音することにした。だから私たちはただジャム・セッションを続けて、少し休憩してそれを聴き返すというのをやって、誰かが自分のパートに満足できてなかったら、そこを録り直したり、その部分をミュートして違うメロディーを歌ってみたりした。そんなふうに自由に試行錯誤しながら作業を進めていったんだ。ある意味で凄く生産的な方法だったし、同時に凄く自由でもあったと思う」。