©Alice Backham

デビューと同時に絶大な成功を収めたあの2人が、数多くの経験と熱気を共有して5人組バンドに進化! 多面的な愛を宿した新作が物語るその刺激的な現在地とは?

変わらず持っている精神

 「100%満足しているから、完成してリリースできるのがすごく嬉しい。私だけじゃなく、メンバー全員が同じ気持ちなんじゃないかな。前作がいい結果を出せたから、今回のアルバム制作には本当に興奮して5人で一緒に取り組むことができたのも良かったと思う。正直、私は個人的に少し心配していたんだけれど、実際に始めると本当に楽しかった」。

 野心作、意欲作、挑戦作、何でもいいが、とにかく文句ナシのセカンド・アルバム『moisturizer』を完成して、リアン・ティーズデール(ヴォーカル/ギター)は率直にこう語る。彼女とヘスター・チャンバース(ギター/ヴォーカル)によって英ワイト島で結成されたウェット・レッグ。ヘスターの祖父の長椅子に座ってリアンが一晩で書いたという2021年のデビュー・シングル“Chaise Longue”が大きな評判となり、翌2022年のファースト・アルバム『Wet Leg』は全英/全豪1位を獲得、日本でも大きな話題となった。その後のグラミーではアルバムとシングルがオルタナティヴ部門で受賞、ブリット・アワードでは最優秀新人賞と最優秀グループのに2冠に輝き、音源は5億回超のストリーミングをカウントするなど、数字の面でも申し分ないどころじゃなく華々しい結果を残している。

WET LEG 『moisturizer』 Domino/BEAT(2025)

 そういった周囲の状況だけでなく、バンドそのものも大きく変化した。もともとフェスで演奏を楽しむためにリアンとヘスターが結成したバンドは、ジョシュア・モバラキ(ギター/シンセサイザー)、エリス・デュランド(ベース)、ヘンリー・ホームズ(ドラムス)と共にツアーを重ねるなかで、 タイトな一体感を備えた逞しいライヴ・バンドへと進化してきたのだ。長くサポートを務めた3人は今年から正式メンバーに名を連ねているが、そうなる前から5人で重ねてきた経験とバンドとしての成長は、レコーディングが持つ意味をも変えることになったようだ。

「私たちが常に持っているヴィジョンは、曲を演奏する時に何かを感じること。だから、ライヴで演奏するのが楽しい曲を作ることは私たちにとって重要で、それはバンドを結成した時から私たちが変わらず持っている精神の一つでもある。私とへスターがバンドを始めたのは、ただフェスで楽しいライヴ演奏がしたかったからだしね。でも当時の私たちは本当に無知で、ツアーで得られる感覚がどんなものかというのをまったく知らなかった。でもいまは曲を書いたりデモを演奏している時点で、すぐにその感覚やエネルギーを感じることができるようになったんだ。今回作業していて、それはすごくクールだった」。

 そんな感覚から生まれた『moisturizer』では、初作の大半で絡んだダン・キャリーをふたたびプロデューサーに起用。具体的な楽曲制作は、2024年3月にサウスウォルドで行われた合宿形式のセッションから始まったという。

 「ツアー中はやっぱり曲が書けなくて、だから2023年11月にツアーを止めて、しばらく落ち着くことにしたんだ。クリスマスを過ごして、そこからさらに1か月休んで、また1か月休んで、3月にやっと次のアルバムを作ろうってことになった。そこから皆で一緒に旅に出て、すべての機材を田舎にある家に持ち込んでセットアップした。ジョシュアは優秀なプロデューサーで制作スキルも抜群だから、彼が指揮してくれて、ジャム・セッションをすべてマルチで録音することにした。だから私たちはただジャム・セッションを続けて、少し休憩してそれを聴き返すというのをやって、誰かが自分のパートに満足できてなかったら、そこを録り直したり、その部分をミュートして違うメロディーを歌ってみたりした。そんなふうに自由に試行錯誤しながら作業を進めていったんだ。ある意味で凄く生産的な方法だったし、同時に凄く自由でもあったと思う」。

 

5人の間の化学反応

 〈大成功した後の2作目〉という重圧を取り払えたのも、そうした制作環境の賜物だったようだ。

 「あまりプレッシャーはなかった。皆で一緒に遠くへ行って、家に滞在して、荷物を全部そこに置いて、自炊して、世間との繋がりを遮断した状態で制作に挑んだのが良かったのかもね。友達や家族とも連絡を取らず、隔離された環境を保つことでパニックにならずに済んだんだと思う。あと、ダン・キャリーとスタジオに戻ったことも本当に役立った。また彼と一緒にスタジオに入れたのは本当にクールだったな。あの空間に戻って、3年前にそこで何を感じたか思い出せたのは良かった。自分たちがどれだけ成長したかを考えることもできたしね。前のアルバムを作っていた頃は他の仕事をしていて、制作環境に自分たちを合わせなければならなかった。でも今回は与えられたリソースをすべて利用して、皆で一緒に全エネルギーを費やして自己誘導的に作業ができたのがすごく良かったと思う」。

 仕上げたデモを持ってダンとスタジオに入った彼らは、そこから14曲を完成させ、トラックリストを決める段階で12曲に絞ったそうだ。

 「なんか12曲にしたかったんだよね(笑)。トラックリストは曲やアルバムの捉え方を完全に左右するから、曲順は時間をかけて話し合った。それで全員が“u and me at home”を最後に持ってきたいと思ったんだよね。全員のヴォーカルが入っているし、歌詞にも〈maybe we should start a band(私たちはバンドを始めるべきかも)〉なんて箇所があるみたいに、私たちの全体的な経験を振り返るような部分もあるから、アルバム全体を締めくくるのに相応しい気がして。で、私としては“CPR”が1曲目にくることが重要だった。なぜなら、今回は主に愛についてのアルバムで、“CPR”は私にとって愛を受け入れること、そして、最初はそこに落ちることに恐怖や不安を抱えていたことを象徴しているから。だから“CPR”で始まって“u and me at home”で終わることは必須だった」。

 その“CPR”はリアンがこれまで避けてきた〈ラヴソング〉というテーマに挑戦した一曲で、“u and me at home”は解放感に溢れたフックのリフレインが終幕に相応しい。アルバムの根底には〈愛〉というテーマを多角的に捉えようとする姿勢が横たわっているが、曲調そのものは多彩で、曲ごとの個性はより明快になった。なかでもパンキッシュでアングリーなニューウェイヴ調の先行カット“catch these fists”や、疾走感のある“pillow talk”にはよりダイナミックでソリッドな〈バンドらしさ〉が感じられることだろう。

 「その2曲の核はヘンリーとエリスのリズム・セクションで、他のメンバーはただ自然に溶け込んでいる感じ。だから、その2曲は本当に楽しい。二人は本当に息が合っていて、音楽的な絆が本当に深い。それって多くの最高のバンドにも当てはまると思う」。

 また、大半の曲で歌唱に専念したリアンの表現力の向上も特筆すべきものだ。一方で、ソングライティング面では多くがリアン主導だった前作に対し、今回はリアンとエリス、もしくはリアンとジョシュアの共作が大半を占め、5人全員がクレジットされた“jennifer’s body”があったり、ヘスターが2曲を単独で書いていたりもする(彼女が単独でリード・ヴォーカルを担った“don’t speak”が最高にメロディアスだ)。まだ女性デュオと見なされる状況はありつつ、5人がより密に絡んだことでバンドとしての音楽性が幅と厚みを格段に増したのは言うまでもない。

 「私の頭の中では、ウェット・レッグはもう長いこと5人組で、5人の釣り合いが完璧に保たれてバンドが存在している感覚なんだ。私とへスターがバンドを始めたことはウェット・レッグの物語でとても重要な部分だとは思うし、まだ私とへスターがバランスを保ちながらリードしている部分はあるのかもしれない。変わった部分もあるかもしれないけど、へスターはいまも素晴らしいフックのあるギターのメロディーを次々と生み出していて、私も自分の役割を続けていて、そこに人が加わったぶんアイデアが増えただけ。お決まりのつまらない言葉に聞こえてしまうかもしれないけど、私たちの間には確実に化学反応が起こっている」。

左から、ウェット・レッグの2022年作『Wet Leg』(Domino)、ウェット・レッグが参加したパラモアの2023年作『Re: This Is Why』(Atlantic)

ダン・キャリーが手掛けた近作を一部紹介。
左から、スクイッドの2025年作『Cowards』(Warp)、ハートワームスの2025年作『Glutton For Punishment』、モーリッシュ・アイドルズの2025年作『All In The Game』(共にSpeedy Wunderground/PIAS)