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〈アルバム曲〉として絶妙に再構築された“へでもねーよ(LASA edit)”

こうしたことは“へでもねーよ(LASA edit)”にも言える。「珍しく怒りのような感情から生まれた曲。その衝動をそのまま出したようなシングルバージョンから月日は流れ、おれの心境も変わった。このアルバムに馴染ませるためには、もう少し余裕を持って、より豊かな色彩でこの曲を再構築する必要があると思った」という通り、両バージョンの仕上がりは大幅に異なる。

『LOVE ALL SERVE ALL』収録曲“へでもねーよ(LASA edit)”

シングル版では、“アランフェス協奏曲”風の冒頭フレーズを活かすラテン音楽的コード進行が、歌謡曲的な解決感、破壊的なカタルシスをもたらしていたが、“LASA edit”では、フュージョン〜シティポップ的なコードをそれらの定型とは大きく異なる並びで用い、爽やかながら明確な解決を避け続ける浮遊感を生んでいる。この改変は、単発で区切りをつけるのではなく流れの一部として漂い続ける〈アルバム曲〉として絶妙な仕上がりだし、冒頭の尺八から想起される日本の伝統音楽の不安定な和声感覚を現代的に再構築したものとしても、稀にみる素晴らしい出来である。

ファーストアルバム『HELP EVER HURT NEVER』(2020年)での2000年代J-R&B的な方向性もあって〈R&Bの人〉的イメージが定着しつつあったようにも思われる藤井 風だが、音楽的バックグラウンドやそれを駆使する発想はそこに留まらないし、本作ではこうした在り方がだいぶ前面に出てきている。

 

誰でもアクセスできる結節点としての〈天衣無縫の音楽〉

以上を踏まえて何より得難く思われるのが、こうしたキメラ状の構造が生み出す優れたアクセシビリティーである。冒頭で触れた““青春病””の歌メロ構成は、ある意味では様々な世代にとっての〈青春〉を繋ぎ目が見えないくらい滑らかに並べ接続したものだとも言える。ストリーミング/サブスク普及後だからこそ培われたのだろう広範な素養、過去と現在を分け隔てなく楽しみ受け入れる肌感覚が、それら全てを違和感なくまとめる天衣無縫の音楽を生む。そしてそれは、誰でもどこからでもアクセスできるものとなり、それらを繋げる結節点にもなる。

こうした在り方は、昨年の「NHK紅白歌合戦」における活躍や、本作の圧倒的なチャートアクションも鑑みれば、藤井 風というアーティストが間もなく担おうとしている(既に担っているようにもみえる)〈お茶の間〉的な立ち位置にも通じるし、『LOVE ALL SERVE ALL』(すべてを愛し奉仕する)というアルバムタイトルはそれを実によく体現している。

ファーストアルバムの音楽性はどちらかと言えば保守的なものだったが、今回のセカンドアルバムでは、そこから出発したからこそ生み出せる新鮮さ、広く根付いたスタイルの内部から境界を押し広げる力が示されている。今後の展開もいっそう楽しみになる、本当に素晴らしい作品である。

 


RELEASE INFORMATION

藤井 風 『LOVE ALL SERVE ALL』 HEHN/ユニバーサル(2022)

リリース日:2022年3月23日

■初回盤 ※2CD
品番:UMCK-7162/3
価格:4,400円(税込)
初回特典:特製フォトブック(全52P)/『LOVE ALL COVER ALL (piano arranged covers)』

■通常盤
​品番:UMCK-1711
価格:3,300円(税込)

■配信
価格:2,200円(税込)
配信リンク:https://fujii-kaze.lnk.to/LASA
iTunesプリオーダー特典:“旅路”“きらり”“燃えよ”MV付属

TRACKLIST
Disc 1(初回・通常盤共通)
1. きらり
2. まつり
3. へでもねーよ(LASA edit)
4. やば。
5. 燃えよ
6. ガーデン
7. damn
8. ロンリーラプソディ
9. それでは、
10. “青春病”
11. 旅路

Disc 2『LOVE ALL COVER ALL』(初回盤特典)
1. Sunny / Bobby Hebb
2. No Tears Left To Cry / Ariana Grande
3. Hot Stuff / Donna Summer
4. Sorry / Justin Bieber
5. Good As Hell / Lizzo
6. Just the Two of Us / Grover Washington Jr.
7. Weak / SWV
8. Overprotected / Britney Spears
9. Teenage Dream / Katy Perry
10. Eh, Eh / Lady Gaga
11. Circles / Post Malone