プッシー・ガロア、ボス・ホッグ、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンなど多くのバンドで伝説を残してきたガレージロック~ブルースロックのカリスマ、ジョン・スペンサー。先月には「ブルース・エクスプロージョンはもう終わった」と発言したことでも話題を集めていた彼が、新たなバンド、ジョン・スペンサー・アンド・ザ・ヒット・メイカーズを始動させた。
同バンドが、この度ファーストアルバム『Spencer Gets It Lit』を完成。尖った音楽性を持ったこのアルバムは、スペンサーの飽くなきロックへの情熱を聴き手に再確認させる作品と言えるだろう。今回は、音楽ライターの山口智男が、『Spencer Gets It Lit』を解説した。 *Mikiki編集部

JON SPENCER & THE HITMAKERS 『Spencer Gets It Lit』 In The Red/ソニー(2022)
ソロ作から生まれたプリミティブでジャンクなロックンロールバンド
ジョン・スペンサー初のソロアルバム『Spencer Sings The Hits』として始まったプロジェクトがその後、同作のレコーディングメンバーとのリリースツアーを経て、ジョン・スペンサー・アンド・ザ・ヒット・メイカーズなるバンドに発展して、新たなキャリアのスタートに繋がっていったのだから、人生何が起こるかわからない。
『Spencer Sings The Hits』を作ったときの手応えがあったうえで、ライブを重ねるごとに〈時間を掛けて追求してみたい〉とスペンサーに確信させるほどのプロジェクトになっていった、ということだと思うのだが、プッシー・ガロアのメンバーとしてデビューしてから30余年、常にバンドの一員として活動してきたスペンサーは、やはり根っからのバンドマンなのだろう。
ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプローションは活動が止まっていたし、ボス・ホッグも、ヘヴィ・トラッシュもすぐには動けない状況だったため、その後、『Spencer Sings The Hits』となる曲の数々を、スペンサーは1人で書かなければいけなかったのだが、それらをレコーディングするにあたっては、複数のミュージシャンとのセッションといういかにもソロアルバムらしいやり方ではなく、固定のバンドで臨んでいる。
そのとき、スペンサーが招集したのが、以前からその独特なキーボードサウンドのファンだったというオレゴン州ポートランドのインディーロックバンド、クワージのサム・クームズ(シンセサイザー/ボーカル)とミシガンのベントンハーバーにあるスペンサーお気に入りのスタジオ、キー・クラブのアシスタントエンジニア、M・ソード(ドラムス)の2人だった。
マルチプレイヤーのクームズをギターでも、ベースでもなく、シンセ奏者として迎えたところに同じトリオでもブルース・エクスプロージョンとは明らかに違う音を求めたことが窺えるが、『Spencer Sings The Hits』を作るとき、自分が書いた曲に〈プッシー・ガロア感〉を見出したスペンサーは、シンセサイザーに加え、プッシー・ガロアのユニークさ特徴づけていたメタルパーカッションを使って、今一度、プリミティブなロックンロールとジャンクサウンドの融合を目指したという。
求めたのはメタルパーカッションのサウンド
しかし、ジョン・スペンサー・アンド・ザ・ヒット・メイカーズが完成させた今回の新作『Spencer Gets It Lit』を聴いたいま、その試みは『Spencer Sings The Hits』においては中途半端のまま終わってしまったという印象が否めない。むしろ『Spencer Sings The Hits』はウィルソン・ピケットを思わせる“Overload”やキングスメンを思わせる“Wilderness”をはじめ、60年代のガレージバンドやそれらが影響を受けたR&Bに対するスペンサーなりのオマージュが溢れたダンスロックンロール作品として楽しむべきなのだと思う。
まだまだ足りないものがある、とスペンサーも感じていたことは、『Spencer Sings The Hits』のリリースツアーにメタルパーカッション奏者として、プッシー・ガロア時代のバンドメイトで、それ以前はソニック・ユースで叩いていたボブ・バートを迎えたことからも想像できる。
『Spencer Sings The Hits』のレコーディングではスペンサー自らが叩いたメタルパーカッションは、音源ではまだまだ控えめだったが、ライブでバートが思いきり鳴らしたことで、スペンサーのなかで求めるサウンドがさらに具体化したのだろう。また、ツアーを通して、クームズとソードの参加意識もより積極的なものに変化していったに違いない。

ジャンク~インダストリアルロックを彷彿とさせる『Spencer Gets It Lit』
4人の間に新たな化学反応が生まれたことは、『Spencer Sings The Hits』と同じキー・クラブで2021年7~8月にレコーディングした本作『Spencer Gets It Lit』を聴けば、明らかだ。だからこそのバンド名義のリリースなのだと思う。
1曲目の“Junk Man”から全編でメタルパーカッションが鳴り響き、シンセがフリーキーに唸っている。60’s調のノスタルジックなオルガンが鳴る“Death Ray”、“Bruise”、“The Devil’s Ice Age”、スペンサーがR&B調のリフを奏でる“Get Up & Do It”、ハードロッキンなリフがストゥージズを連想させる“Germ Vs. Jerk”といったガレージロックという言葉が思い浮かぶ曲も収録されているが、『Spencer Gets It Lit』を敢えてジャンルで語るなら、ジャンクロック、あるいはインダストリアルロックという言葉のほうがふさわしい。
プリミティブなロックンロールとインダストリアルなジャンクサウンドの融合を目指したスペンサーの試みは、ようやくここで完成したと言えるだろう。その到達点と言える曲が“Layabout Trap”だ。ファズギターのリフに加え、メタルパーカッションも鳴る曲だが、エルヴィス・プレスリーをデフォルメしたようなスペンサーのシャウトとスプーキーに鳴る厚いシンセのリフがジャンク/インダストリアルロックの源流、スーサイドを彷彿とさせるのだからたまらない。
クワージのジャネット・ワイズが参加し、さらに進化するザ・ヒット・メイカーズ
ここに来て、スペンサーのキャリアがこんな展開を見せるとは。ちょっと驚きながら、スペンサーがひとまず完成させたザ・ヒット・メイカーズのサウンドを、ここからどう進化させていくか、大いに期待している。
なぜなら、『Spencer Gets It Lit』のリリースツアーにはソードに代わって、クワージのジャネット・ワイズが参加するからだ。スリーター・キニーやスティーヴン・マルクマス&ザ・ジックスでプレイしてきたワイズが加わることで、ザ・ヒット・メイカーズにさらなる化学反応が起きることは、まず間違いない。新しいサウンドに貪欲になっているスペンサーたちのことだ。そこでザ・ヒット・メイカーズがどんなふうにハネるかを考えただけでワクワクが止まらないではないか。
なお、『Spencer Gets It Lit』の日本盤にはボーナストラックとして、昨年、ギターウルフ主催の〈シマネジェットフェス〉にリモート出演したときのライブ音源が7曲追加されている。『Spencer Sings The Hits』の曲のみならず、プッシー・ガロアの“New Breed”も含むその7曲もザ・ヒット・メイカーズのライブの熱気を伝えるものという意味で必聴だ。
RELEASE INFORMATION

JON SPENCER & THE HITMAKERS 『Spencer Gets It Lit』 In The Red/ソニー(2022)
リリース日:2022年4月1日
配信リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/JonS_SGL
TRACKLIST
1. Junk Man
2. Get It Right No
3. Death Ray
4. The Worst Facts
5. Primary Baby
6. Worm Town
7. Bruise
8. Layabout Trap
9. Push Comes To Shove
10. My Hit Parade
11. Rotting Money
12. Strike 3
13. Get Up & Do It
14. Germ Vs. Jerk
15. The Devil’s Ice Age
16. Wilderness (Live) ※
17. Fake (Live)
18. Time 2 Be Bad (Live)
19. Tough Times In Plastic Land (Live) ※
20. New Breed (Live) ※
21. Hornet (Live) ※
22. Can’t Polish A Turd (Live) ※
※日本盤ボーナストラック