©Cecily Eno

聴きやすさの中にある、味わい深い〈曖昧さ〉とは

──このご時世、どう過ごしてますか?

「私が住んでいるのは、産業革命から取り残されたかのようなイギリスの片田舎。ロックダウンで一時期、車も飛行機も近くを通らなくなった。1940-50年代に戻ったかのようで素晴らしい。近所に住む兄(ブライアン・イーノ)たちと自転車に乗ったりもした。でも和気あいあいとできるライブ会場も恋しいね」

──今回のアルバム『ターニング・イヤー』が生まれた経緯を教えてください。

「ドイツ・グラモフォンから兄と『Mixing Colours』(2020年)をリリースしたけれど、今度はソロ作品を出さないかと言われたんだ。最高のスタジオと、最高のエンジニア(注:トビアス・レーマン。このインタビューの数週間前に惜しくも急逝)に恵まれた。スコーリング・ベルリンはトップレベルの演奏家集団で、クリスチャン・バズーラはプロデューサーとして有能だ」

ROGER ENO 『The Turning Year』 Deutsche Grammophon/ユニバーサル(2022)

──制作で心がけたことは?

「何年にもわたって聴いてもらえるような作品を目指したよ。また、初めから終わりまで繰り返し自然に聴けるように作った。さらに情報を詰め込みすぎず、余白を作ることを意識した。曲のタイトルも、受け手の解釈の余地があるものにした」

──曲について、例えば1曲目の“A Place We Once Walked”ではご自身で作って名前をつけた終止形を使用しています。不思議な終わり方です。

「私が死んでもその終止形が教科書に載っていたら面白いね(笑)。どのように終わらせるかは哲学的な問題だ。最近よくジョン・ダンスタブルや、レオニヌス、ペロタン、クープラン、ラモーなどを聴く。特にダンスタブルの終止形は現在と異なるので、自分の耳を変えてくれる」

──〈曖昧さ〉表現について。

「長調や短調を混ぜることがわかりやすい例だし、さらには雰囲気の曖昧表現を心がけているんだ。物事が明るい方向になるよう願ってはいるけれど、この血生臭い世界を受け入れること。希望には受容を、憂鬱には前向きな側面を混ぜたりするんだ」

──あなたの音楽のバックグランドについて。

「12歳のときにコルネットに出会い、オーケストラ、合唱、パンクバンドを経験した。また、ジャズバンドでピアノを弾き、フォークバンドでアコーディオンを弾きもした。あらゆる経験が既存のジャンルにとらわれない自分の曲作りに生きてるのだと思うよ」