Spotify〈RADAR: Early Noise 2022〉やタワーレコードの独自企画〈未来ノ和モノ -JAPANESE FUTURE GROOVE-〉に選出されるなど、いまネクストブレイクが期待されるアーティストとして注目を集めるBialystocks。彼らの新曲“差し色”が、向井理と北村有起哉が主演するテレビ東京ドラマ25「先生のおとりよせ」のエンディングテーマソングとして話題だ。今回はその“差し色”について、Bialystocksの甫木元空によるセルフライナーノーツをお届けする。彼が綴った文章と撮影した写真から、楽曲の背景やミュージックビデオの撮影秘話が明かされる。 *Mikiki編集部
差し色、覚書
甫木元空
弟の奥歯が真横に生えているレントゲン写真を朝から見せられ鬱々とした1日を迎えた。
新曲のデモはいまだ固まらず、Bialystocksのもう一人のメンバー菊池から「クソみたいな曲しかできてません」と一言。
この度ドラマに書き下ろしで曲を書くという初の試み、脚本や原作を読んでみるも……。
パラパラパラ。
いっそこの紙がめくれる音を録音して……。
非常にまずい思考になってきた。
ドラマのタイトルは「先生のおとりよせ」。
美味しそうな、お取り寄せ商品に脳内が引っ張られ、空腹感だけは取り戻した。
部屋から日本全国へ物流の線を何か歌詞に反映できないものか。そんな事を考えていた筈なのに、ドンドン長崎の牡蠣カンカン焼きに詳しくなっていく。ネットサーフィンの波は恐ろしい、人生はいつも突然よからぬ方へ。
とりあえずおとりよせというフォルダだけデスクトップに作り気合をいれる。
タイトルだけ先行して考えてみるのもたまにはいいかと言う事で〈お取り寄せ〉〈お品書き〉〈しわ寄せ〉〈裾分け〉と、数うちゃ当たるだろという安易な思考をとりあえず菊池に送信。
そんなこんなで某日、レコーディング当日を迎えてしまった。頭を抱えて絶望と共にパソコンをみつめていると隣からぽつり「全部呪いの言葉みたいなので〈差し色〉はどうですか?」菊池からの鶴の一声により呪縛は解かれた。
タイトルは〈差し色〉。曲はなんとか完成し、あとはMV撮影を残すのみ。撮り下ろしとしては初めて自分で監督する事となった。
ロケハンの末、所沢市民文化センター ミューズで撮影決定。ここに来るのは青山真治監督「贖罪の奏鳴曲」のエキストラ参加以来か、父のお別れ会以来か……。
MVは数々の上演を飲みこんできた劇場が、深夜突然喋りだしたら……的な事を当初考えていた気がする。もうそんな事すらも覚えてない。
今回初めて組むスタッフとの共同作業の中で、たまたま出てきた資料に現実的な場所として上がってきた所沢市民文化センター。
自分がもう出会うことのない人生の師二人の面影が残るこの場所で、このタイミングに撮影する事に何か不思議な縁を感じた。
父が死んだ年に、青山真治監督とは多摩美術大学の先生と生徒という関係で知り合った。青山さんがいなければBialystocksは結成していないし、自分は映画もやれていない。数々の出会いをもらった。
そんな人に限って、なにも返せずノロノロやってるうちに去っていく。
何事も自分がコントロールでき、恩や義理を一人残らず返していけたらいいのだが、そんなものは自分のエゴでしかないのかもしれない。そんな人間で溢れたらこの世はどうなるのだろう。時間は元には戻らない。
この世は繰り返される事のない瞬間の連続で、もう二度と繰り返す事のない永遠で満ちている。寄せては返す波音や、風にゆれるネムノキ、何事も一度きりの体験と共にある。
記録されたものですら、再生すれば一度だって同じ体調、同じ気分、同じ振動、同じ光で体験することはありえない。常にその場でしかおこりえない体験、冒険である。
その中でもとりわけ自分にとっての名作は一瞬を永遠に引き伸ばし、何度だって甦る。観客さえいれば何度でも甦る、そして、物語はつづいてく。
「みなまでいうな」と青山さんや父に怒られそうなのでこの辺で……。
劇場は深夜に喋り出し、亡霊たちは歌い出す。数々の亡霊と対話する事で今を見つめ続けてきた二人のように自分も。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2022年4月15日
配信リンク:https://lnk.to/sashiiro
TRACKLIST
1. 差し色
EVENT INFORMATION
Bialystocks Live 2022 “音楽交流紀 1”
2022年5月7日(土)東京・渋谷 WWW ※SOLD OUT
開場/開演:18:15/19:00
出演:Bialystocks
ゲスト:グソクムズ
前売り:4,000円(税込/自由席/ドリンク代別)
PROFILE: Bialystocks
2019年、ボーカル・甫木元空監督作品、青山真治プロデュースの映画「はるねこ」の生演奏上映をきっかけに結成。ソウルフルで伸びやかな歌声で歌われるフォーキーで温かみのあるメロディーと、ジャズをベースに持ちながら自由にジャンルを横断する楽器陣の組み合わせは、普遍的であると同時に先鋭的と評される。2021年、ファーストアルバム『ビアリストックス』を発表。同年、〈METROCK 2021〉への出演が決定。同作収録曲“I Don’t Have a Pen”はNTTドコモが展開する〈Quadratic Playground〉のウェブCMソングに選出された。2022年、2作目の全国流通EPとなる『Tide Pool』を発表。同作は、話題になった先行シングル“光のあと”“All Too Soon”他全5曲を収録。