(左から)甫木元空、菊池剛

映画作家でもある甫木元空(ボーカル/ギター)と、他のアーティストのサポートやジャズのライブで主に活動してきた菊池剛(キーボード)からなる2人組バンドBialystocks……という言葉も本サイトにおいてはもはや不要かもしれない。2022年1月に発表したEP『Tide Pool』でのインタビュー記事を皮切りに、2回の対バン企画〈音楽交流紀〉と自身最大規模の大手町三井ホールで行われた第一回単独公演のライブレポート、そして“差し色”、“灯台”、“日々の手触り”と新曲を発表するごとに甫木元自身によるセルフライナーノーツを掲載してきたからだ。

そんな中、極めつけとばかりにメジャーファーストアルバム『Quicksand』がこの度リリースされた。また甫木元の6年ぶりの監督映画「はだかのゆめ」が公開されるタイミングも重なったこのタイミングで、再び2人にインタビューを実施。「はだかのゆめ」にも出演している前野健太との共作曲“ただで太った人生”や、菊池が敬愛するフランク・シナトラばりのストリングスを取り入れた“はだかのゆめ”など、新たな試みも伺える本作を軸に怒涛の2022年を突っ走ってきた彼らの試行錯誤を語ってもらった。

Bialystocks 『Quicksand』 IRORI/ポニーキャニオン(2022)

 

ライブ、メジャーデビュー、映画公開……怒涛の2022年を駆け抜けて

――今年1月の『Tide Pool』のリリースから、映画「はだかのゆめ」の公開、そして今回のメジャーデビューアルバムの発表と今年はハイペースな活動を行ってきました。お二人の中で今年の活動には並々ならぬ意気込みがあったのでしょうか?

甫木元空「『Tide Pool』のリリースから今回のアルバムまでは一応スケジュールを想定していましたが、しっかり計画を立てていたというよりは、終わってみれば〈こんなに色々やったのか〉という感じでした」

――作品のラッシュに加えて、2回の自主企画公演〈音楽交流紀〉に、大手町三井ホールで行われた第一回単独公演とライブも精力的でした。ライブから得られた手ごたえはありましたか?

甫木元「2019年にバンドを結成してすぐにコロナ禍になったので、僕はあまりライブ経験もなかったんです。こういう音楽なので、ワーッとお客さんが盛り上がるような体験は未だにないんですけど(笑)。

でもやはりこの前の単独公演は音楽を演劇的に観てもらうような要素を入れたことで、独特の空気になりましたね。それに影響を受けて自分たちも、いい緊張感をもってやれた気がします。〈音楽交流紀〉も含めて、自分たちのライブの作り方を徐々にわかっていくような感覚がありました」

菊池剛「完成した自分たちの曲って、後からあんまり聴き返したくないタイプなんですが、今年はたくさんライブがあったので、強制的に向き合い直す機会にはなりましたね(笑)。

ライブごとに色んなミュージシャンの方に関わっていただいたので、新曲だけではなく過去の曲もちょっとずつアレンジが変わっていきました」

2022年5月二東京・渋谷WWWで開催された〈Bialystocks Live 2022 “音楽交流紀 1”〉のライブ動画

 

聴いていく内に距離感や景色、季節が移り変わっていくアルバム

――ライブでもひと際、各プレイヤーの演奏が映える“Winter”の再録バージョンも今回のアルバムには収録されていますね。

菊池「“Winter”は2020年に配信リリースしているんですが、当時は本当に結成してすぐ作ったものだったので、ちゃんと録音し直したいとはずっと思っていて。

仰る通りライブでもずっとやってきた曲なので、ちょっとずつアレンジも変わってきました。今回は今のライブのアレンジをベースに、コーラスを足すなど少し手を加えたものになっています」

『Quicksand』収録曲“Winter”

――今回のアルバム『Quicksand』はどんな作品にしようとしましたか?

甫木元「『Tide Pool』と地続きな作品だと思っているので、何かコンセプトを設けたり、〈メジャーデビューだからどうしよう〉ということは意識しませんでした。二人でデモを出し合って、そこからいいものを採用していくやり方も前作と同じです」

『Quicksand』ダイジェスト動画

――何か新しい取り組みはありましたか?

甫木元「“差し色”はドラマ(テレビ東京系ドラマ25『先生のおとりよせ』)のエンディングテーマだったので、二人の中だけで完結するのではなく〈映像作品と合うか〉という視点も加わるから、今までとは違う作り方でしたね。

作曲した時に映像はまだなくて、台本と原作の漫画を拝見したんですけど、〈作品の内容に寄り添い過ぎないくらいでいい〉とドラマの製作者側から仰っていただいたので、窮屈さはありませんでした。

だから自分の詞については、主人公二人と自分たちの関係性を重ね合わせながら書きましたね。どちらも共同作業によるものづくりをしながら、一人の世界からどんどん広がっていく感覚というか」

菊池「作品の解釈はほとんど甫木元に任せて、ドラマの放送が東京では金曜日の深夜だったので、その時間帯に流れたら心地よいサウンドを僕はアレンジ面で目指していました。週5日働いて、ちょっと夜更かしして、寝る直前に聴くようなイメージです。

自由に作らせていただきましたが、決まった尺に合わせるのは少し大変でしたね」

『Quicksand』収録曲“差し色”

――イントロも短く、20秒ほどでサビがくるところが新鮮でしたが、ドラマの形式に乗っかることで生まれたアイデアだったんですね。一方“はだかのゆめ”は甫木元さんの映画の主題歌ですが、こちらは壮大なストリングスが印象的でした。

菊池「僕はフランク・シナトラが大好きなんですけど、大好きだからこそ今までその要素をモロに出したアレンジはしたことがなかったんですね。でも甫木元が作ったメロディーを聴いて、これはストリングスしかないと思ったし、映画の主題歌としての予算もついていたので、今やるしかないと(笑)。

自分の手には負えないかなと思っていたんですけど、普段からずっと聴いているシナトラだったから、自分の中から自然にアレンジが出てきて、それを採用しました。バイオリンの音域とかを調べながらの作業ではありましたが」

『Quicksand』収録曲“はだかのゆめ”

――“差し色”や“灯台”はシングルとして先に発表されていましたが、アルバムとしての全体像が見えたのはどのくらいの時期でしたか?

菊池「半分くらいの曲は9月頃からアレンジを始めて、そこから怒涛の勢いで進めた気がします」

甫木元「だからちゃんと全体像が見えたのは、ついこの前……(笑)

※編集部注 取材は2022年11月2日に行った

――それは大変でしたね……。Bialystocksの音楽は、1曲の中でも展開がガラっと変わったり、大きな起伏があったり、風景の移り変わりを重要視している印象があります。アルバム全体の流れで意識したことはありますか?

甫木元「菊池が作ってきた“朝靄”は早くから1曲目と決めていました。自分が今住んでいる高知の家は朝靄がすごく出るんですけど、その光景と重ねられる気がした曲だったんです。

Bialystocksの音楽って僕の体験や過去の記憶を落とし込むものが多いけど、今仰っていただいた通り描く対象との距離感や、景色や季節が聴いていく内に変わっていくようなものにしたいと思っていて。

だから四季の移り変わりみたいなものが感じられるように、ちょっと視界がぼやけた“朝靄”の状態からアルバムを始めたいなと思ったんです」

『Quicksand』収録曲“朝靄”