初のワンマンライブ〈Bialystocks 第一回単独公演 於:大手町三井ホール〉のチケットが発売後早々に完売、さらに有料配信ライブ〈音楽交流紀 2〉の開催や、甫木元空(ボーカル)の監督映画「はだかのゆめ」の公開が控えているなど、勢いが止まらないBialystocks。彼らが、“差し色”に続く待望の新曲“灯台”を本日9月2日にリリースした。力強いビートにリズミカルな言葉が乗せられたこの曲の歌詞は、どのようにして生まれたのだろう? どうやら、今回も〈あちら〉に行ってしまった人々が重要なテーマのようだ。甫木元によるセルフライナーノーツと写真が、“灯台”のリリックや、「はだかのゆめ」の未公開シーンを使用したミュージックビデオの背景を伝える。 *Mikiki編集部

Bialystocks 『灯台』 Bialystocks(2022)

 

灯台、覚書
甫木元空

富士そばにて、炭火親子丼とうどんのセットが500円である事、うどんに蕎麦の麺が少量混在していた事にこれ以上ない幸福感を得る。
この幸福感をなんという言葉にできるか……。

歌詞に難航するとこんな謎のメモが携帯に残っている事に後々恐怖を覚える。今回作曲はもう一人のメンバー菊池剛という事もあり、自分で作曲した時よりも情景を勝手に浮かべやすく、まぁなんとかなるだろうと高を括っていた。
和歌山・大斎原の河原に積まれた石や、鳥取の海岸に面して自然発生したといわれている花見潟墓地。高知に住む祖父が盆になると灯す蝋燭や提灯の光。迎え火、送り火。弔いと共にある火をテーマに、去りゆく人とその後の現実を歌詞にできたらと漠然と思っていた。

〈時の波止場にたむろう影と塩の辛さがどうせみんなをいつか立ち止まる日々を胸に〉。とりあえず思いつくまま書き出してみるものの、まったくメロディーに合わないし、そもそもなんかダサい……。メロディーを度外視して言葉の意味だけを先行させる事は今まで避けてきたつもりだが、うんともすんとも日本語がリズムにうまくのっていかない。
あまり観念的なものに引っ張られ過ぎない方がいいのか……。ドトールで昨年8月頃に映画のロケハンしていた時の写真を整理していたら、高知の室戸岬で初めて見た灯台の写真が出てきた。

当たり前の事なのかもしれないが、灯台の光は360度回転し海岸だけでなく陸も照らす。実際に見るまでその事実をまったく知らず衝撃を覚えた。遠くへ行ってしまった人に手を振る様にずっと海を照らしているのではなく、その過程で陸も照らす。その佇まい、距離感こそが今回の歌詞で必要なのではと開き直る事にした。

MVは11月に公開する映画、拙作「はだかのゆめ」から作った。昨年10月に高知でロケをしていた映像を見返す。夜の四万十川にライトを向けて探す母。出発ぎりぎりの夜汽車に間一髪で乗り込むノロマな息子。母と子。もう決して交わる事のない、何度飛び乗っても直視できない隔絶という現実。何者かに突き落とされないと向き合う事のできない、死と向き合うまでの過程。そんな映画本編の導入の様なMVにできたらと思った。
誰しもいつか、死者が自分の目の前から完全に消えたという、隔絶と目を合わせなければいけない時がくる。いつまでも死者を見つめ続ける事はできないし、手を振り続ける事もできない。ただお盆の火が死者への光、標識であると共に、生きている者も照らしている様に今は思う。
提灯の回転、火の揺らぎ、灯台の光の様に360度回転するあちらとこちら。そういった行ったり来たりの運動の反復に生きてる者と死んでる者とがたった一歩でも前に進むための秘密がある気がした。

レコーディングも終わり、テアトル新宿で青山真治監督作「サッドヴァケイション」を見る。大学時代以来久しぶりに見た先生の映画は全然違う映画に見えた。
動脈の様な赤い橋、赤い水平線の下で描かれる行き場のない沈殿した人たち。未来を先に映す編集は、どん詰まりな人たちに風を送り込み、どうにかこうにか浮かび上がらせようとする優しさに感じた。

「旅立つ事に誰も彼も意味などない
この世に偶然は無い 当ての無い
会うべき人に出会える様に
朝日は今あなたを待って」
灯台の最後の歌詞はこの様に締めた。

映画の中で川津裕介さん演じる木島が、主人公・白石健次に「この世に偶然はないよ。会うべき人には必ず会う。そういうものなんだよ」と同じ様な事を言っていた事に驚愕した。その事について青山さんとはもう話す事はできないが、父の死後遺された本棚を整理していた時、自分が最近買った本ばかりが出てきた時と同じ様な、触れてはいけないものに触れた感覚がした……。
死者もあの手この手で、行ったり来たりを繰り返しているのかもしれない。
今後もばったり出くわす事があるのかもしれないが、くれぐれも怒られない様にこちらは動き続けなければいけない。

“灯台”

 


RELEASE INFORMATION

Bialystocks 『灯台』 Bialystocks(2022)

リリース日:2022年9月2日
配信リンク:https://lnk.to/todai

TRACKLIST
1. 灯台

 

MOVIE INFORMATION
はだかのゆめ

■ストーリー
四国山脈に隔たれた高知県。いまだダムのない暴れ川の異名をもつ四万十川。太平洋に流れ出るその川の流れと共に、生きてるものが死んでいて、死んでるものが生きてるかのような土地で老いた祖父と余命をそこで暮らす決意をした母、それに寄り添う息子、ノロ。嘘が真で闊歩する現世を憂うノロマなノロは近づく母の死を受け入れられずに死者のように徘徊している。そのノロを見守るように寄り添うおんちゃん、彼もまたこの世のものではないのかもしれない。息子を思う母、母を思う息子がお互いの距離を、測り直していく、母と子の生死の話。

監督・脚本・編集:甫木元空
出演:青木柚/唯野未歩子/前野健太/甫木元尊英
プロデューサー:仙頭武則/飯塚香織
撮影:米倉伸
照明:平谷里紗
現場録音:川上拓也
音響:菊池信之
助監督:滝野弘仁 
音楽:Bialystocks
製作:ポニーキャニオン
配給:boid/VOICE OF GHOST
2022年/日本/カラー/DCP/アメリカンビスタ/5.1ch/59分
©PONY CANYON
https://hadakanoyume.com/

2022年11月25日(金)より東京・渋谷シネクイントほか全国順次公開

LIVE INFORMATION
Bialystocks - Live 2022 “音楽交流紀 2”(2022.07.09)

2022年9月3日(土)
開場/開演:19:30/20:00
アーカイブ:9月9日(金)23:59まで
視聴券:1,000円(税込/システム手数料別)
チケット発売URL:https://w.pia.jp/t/bialystocks-pls/
インバウンドチケット発売URL:https://w.pia.jp/a/bialymusic22-engpls/
販売期間:2022年8月24日(水)22:30〜2022年9月9日(金)20:00

Bialystocks 第一回単独公演 於:大手町三井ホール
2022年10月2日(日)東京・大手町 三井ホール ※SOLD OUT
開場/開演:17:15/18:00
前売り:5,500円(税込/自由席/ドリンク代別)

 


PROFILE: Bialystocks
2019年、ボーカル・甫木元空監督作品、青山真治プロデュースの映画「はるねこ」の生演奏上映をきっかけに結成。ソウルフルで伸びやかな歌声で歌われるフォーキーで温かみのあるメロディーと、ジャズをベースに持ちながら自由にジャンルを横断する楽器陣の組み合わせは、普遍的であると同時に先鋭的と評される。2021年、ファーストアルバム『ビアリストックス』を発表。同年、〈METROCK 2021〉への出演が決定。同作収録曲“I Don’t Have a Pen”はNTTドコモが展開する〈Quadratic Playground〉のウェブCMソングに選出された。2022年、2作目の全国流通EPとなる『Tide Pool』を発表。同作は、話題になった先行シングル“光のあと”“All Too Soon”ほか全5曲を収録。