(左から)甫木元空、菊池剛

映画監督/映像作家でもある甫木元空(ボーカル/ギター)と、ジャズピアニストとしても活動している菊池剛(キーボード)からなる2人組バンドBialystocksが、3rdアルバム『Songs for the Cryptids』を完成させた。アルバムは約2年ぶりとなり、これまでよりもロングスパンとなったが、彼らは歩みを止めていたわけでは全くない。

キャリア初の東名阪ホールツアーを完遂し、11月に公開される映画「ルート29」では主題歌と劇伴を担当。また甫木元は菅田将暉に“二つの彗星”を楽曲提供し、あいみょん“ざらめ”のMVを監督したことに加え、小説「はだかのゆめ」の書き下ろし、高知県立美術館での展覧会〈窓外 1991-2021〉の開催、そして今は最新監督作品「BAUS 映画から船出した映画館」を鋭意制作中だ。菊池も小林私の楽曲“スパゲティ”の編曲や大橋トリオのライブサポートなど、こうして列挙していくときりがないほど2人のクリエイティビティが全方位的にひっぱりだこ状態だった2年間だったと言える。

そんな経験を重ねる中で完成を迎えた本作は、革新と郷愁が同居したメロディーと、ソウルやジャズをルーツに持つアレンジがかけ合わさることで生まれる独自のサウンドが今回も存分に発揮されている。一方で時折ビートルズの影響が垣間見えたり、大胆なギターソロパートが入っていたりするなど、ロックバンドとしての王道への目配せを感じた。その点で、バンドの変化も伝えている。

Bialystocksに話を訊くのは今回で3回目となるが、毎回甫木元は「アルバムで何かの区切りをつけたわけではなく、Bialystocksの活動は常に地続き」と話している。そんな自然体でいながらも確実に変化や成長が嗅ぎ取れる部分に、彼らの未だ底知れぬ魅力を感じている。甫木元と菊池に本作の時点でのモードについて語ってもらった。

※この記事は2024年10月25日(金)に発行予定の「bounce vol.491」に掲載される記事の拡大版です

Bialystocks 『Songs for the Cryptids』 IRORI/ポニーキャニオン(2024)

 

初ライブから変わらない2人の核

――前作『Quicksand』から約2年ぶりのアルバムですが、この2年間はお2人にとってどんな期間でしたか?

甫木元空「ありがたいことにタイアップで曲を制作させていただいたり、ホールツアーをやったり、目の前のことを粛々とやっていたら、約2年経った感覚ですね」

菊池剛「前作と比べたらアルバムをリリースするスパンは空きましたけど、何か揉めたり滞ったりしたこともなく、1曲ごとの制作ペースはずっと変わっていません。映画の劇伴と主題歌を担当させていただいたり、甫木元も自分の映画の撮影とか色々やっていたら、このタイミングになりました」

――この2年はライブも精力的に行っていて、昨年は2回目の全国ツアーを計6公演実施しています。今年に入って2人編成のライブに、初のホールツアーを東名阪で開催と、毎回規模を大きくしながら、趣向や演出も変えていました。ライブから得られたフィードバックは何かありますか?

甫木元「毎回違ったことをやろうとしているわけではなく、その時やれる会場や集まってくれたバンドメンバーの個性に鑑みて、どういうアレンジや曲順がいいかを考えているだけですね。だから、いつもどういう空気感になるのか探り探りなんです」

菊池「今年のライブは新曲がそんなにないタイミングだったので、ちょっと演出を付けようとしたくらいですね。個人的に2人編成は、自分が別でやっているジャズのライブの延長のような感覚で、その場の即興的な要素もありました。その次のホールツアーに関しては〈スター甫木元空!〉みたいな立ち振る舞いをしてもらって、1人だけ前に出てスポットライトを浴びてもらうイメージ」

甫木元「菊池からは、ど真ん中で歌っている人が場を掌握しているような空気にしてほしいと言われましたね。なかなか難しかったですが……(笑)」

――ライブ活動も充実していく中で、ライブで演奏することを想定して曲を作ることはありますか?

甫木元「〈この曲はライブだったらもっとこういうアプローチになりそう〉という会話は以前よりもするようになりましたが、〈ライブで盛り上がるからこうしよう〉という視点は全くないですね」

菊池「どの曲も音源が出来た段階で自分の中では一区切りついていて、ライブで演る時は改めて一からアレンジを考えるくらいの感覚の曲もあります」

――基本的にライブの演出やアレンジを考えるのは菊池さんの役割なんですか?

甫木元「そうですね。菊池が全体の流れや、そこに合わせた編曲を考えてくれるので。自分はその意図がストレートに届くように頑張る役目です」

――菊池さんの中には、甫木元さんの良さを引き出そうとするプロデューサー的な視点もあるんですか?

菊池「実際そういう目線になりそうな時もあるんですけど、それはなんか違う気がするので、最近はむしろ意識的に持たないようにしています。やっぱりボーカリストは一番目立つし、このバンドの核ではあるんですけど、甫木元空の良さを引き出すためだけのプロジェクトだったら、2人でやっている意味がないですから。

僕が余計なことをせず、もっと素の甫木元空の表現に触れてみたいという人も今はたくさんいると思うので、それだったら彼がソロ稼働を始めて、自分はお金をもらってプロデューサーに徹した方がいいと思っています」

甫木元「1人では思いつかないことを菊池が投げかけてくるところがこのバンドをやっていて一番楽しいところなので、その考えは同じですし、それは初ライブから変わっていないところですね」