2023年のYOASOBI“アイドル”、今年に入ってからはCreepy Nuts“Bling-Bang-Bang-Born”と人気アーティストによるアニメ主題歌の世界的ヒットが続いている。Netflixなどの配信プラットフォーム、TikTokをはじめとするSNSを介して、日本原産の音楽とアニメは独自の発展を遂げている印象だ。
そんななか、YOASOBIやCreepy Nutsに続くヒット曲が早くも誕生。それがアニメ「しかのこのこのここしたんたん」のオープニングテーマ“シカ色デイズ”だ。7月はじめに公開された同アニメのノンクレジット映像は現在までに1,800万回以上も再生され(2024年7月30日時点)、国内外のアイドルらを中心に楽曲を用いたTikTok動画が多数投稿されるなど、まさに世界的ヒットの真っ最中といったところだ。
8月28日(水)には同アニメのエンディングテーマとあわせてCDリリースされる”シカ色デイズ”の魅力とヒットの要因に、ライターの北野創が迫った。 *Mikiki編集部
“シカ色デイズ”の圧倒的なキャッチ―さ
〈しかのこのこのここしたんたん〉――軽快なリズムに乗せて、愛らしい女性の声で繰り返し歌われるこのフレーズを、最近耳にした覚えはないだろうか。TikTokやYouTubeなどSNSを中心に話題となり、現在ネット上でミーム化しているこの楽曲のタイトルは”シカ色デイズ”。今年7月より放送がスタートしたTVアニメ「しかのこのこのここしたんたん」のオープニングテーマだ。
「しかのこのこのここしたんたん」は、漫画家/イラストレーターのおしおしおが「マガジンポケット」で連載している漫画を原作とするアニメ。元ヤンキーの素性を隠し、優等生として学校生活を送る女子高生・〈こしたん〉こと虎視虎子(CV:藤田咲)が、頭にシカのようなツノが生えている転校生・〈のこたん〉こと鹿乃子のこ(CV:潘めぐみ)と出会い、なし崩し的にシカ部(シカをお世話することを目的とする部活)を結成することになる、シュールなギャグが満載のコメディ作品だ。
シカ部には、虎子の妹・虎視餡子(CV:田辺留依)や、のこたんに憧れてシカになることを目指し弟子入りする馬車芽めめ(CV:和泉風花)が所属。〈女子高生4人組〉〈部活動〉〈会話劇中心〉といった要素は、女の子たちの何気ない日常を描く〈日常系〉と呼ばれるジャンルのスタイルを踏襲しつつ、そこに〈シカ〉という謎のファクターが加わることで、予想外のカオスが生まれるのが本作の魅力だろう。
そんなシカ部に所属する4人が歌っているのが、“シカ色デイズ”だ。キャストがキャラクターとして歌唱する〈キャラクターソング〉のフォーマットが採られており、ときにシカに関するトリビアを挿みながら賑やかに歌う様は、作中で描かれるシカ部のカオティックな日常そのもの。元・カラスは真っ白で、現在は作詞家/クリエイターとして引っ張りだこのやぎぬまかなによる歌詞を含め、作品との親和性は抜群だ。
加えて楽曲自体にも「しかのこのこのここしたんたん」の作品性を意識した工夫が多数盛り込まれており、アニメソングとしてのクオリティーは極めて高い。しかも作品の枠を飛び越えて人気を集める音楽としての強度、圧倒的なキャッチ―さが本楽曲には備わっている。
なぜ“シカ色デイズ”は多くの人々を魅了しているのか。ここではその理由を紐解いていきたい。
高い中毒性の秘密は〈スカ〉にあり?
まずは何といっても〈しかのこのこのここしたんたん〉というフレーズに尽きるだろう。一度聴いたら耳から離れなくなる中毒性の高さで、これはまさに発明だ。このフレーズは、楽曲のイントロ部分の冒頭10秒ほどにおいて計4回、サビ終わりに計2回リフレインされる形で登場。アニメの放送に先駆けて、イントロ部分のみをループした〈イントロ耐久1時間〉動画が公式で公開され話題になったほか、TikTokでは“シカ色デイズ(イントロ耐久60秒バージョン)”が公式音源として用意され、こしたんがシカに見つめられながら踊る姿をマネたダンス動画が流行の兆しを見せている(日向坂46の正源司陽子と平尾帆夏、IVEのレイなど著名人も動画をアップしている)。
この〈しかのこのこのここしたんたん〉というフレーズは、作品のタイトルをそのまま歌詞にしているわけだが、思わず口にしたくなる語呂のよさと言葉としてのインパクトがあるうえに、それがリズムに合わせて呪文のように繰り返し歌われることによって、ある種のヒプノティックな心地よさが生まれている。
本楽曲の作編曲を手がけたコンポーザーの和賀裕希と音楽ディレクターの福森優光が動画メディア〈MEW’S BOX〉のインタビューで語ったところによると、そもそもアニメ制作サイドから〈作品タイトルを連呼する楽曲〉というオーダーがあったそうで、そこから和賀がいろいろなパターンの〈しかのこのこのここしたんたん〉というフレーズを試した結果、いまのリズムとテンポ感に落ち着いたという。福森いわく、この部分の歌を検証した結果、〈1/fゆらぎ〉効果に近いものが意図せず発生しているらしいとのことで、これも神の使いたるシカが起こした奇跡なのかもしれない。
サウンド面に目を向けると、とにかく全編にわたってポップかつハイテンションな曲調で、シカやウシなどの動物の鳴き声をはじめユーモラスなSEをあちこちに散りばめつつ、Aメロ・Bメロ・サビなどブロックごとに景色を変えていくカラフルにして賑やかなアレンジは、いわゆる電波ソングの系譜に連なるものだ(実際に和賀は福森から〈電波ソングを作れるか?〉という打診を受けたという)。
また、和賀いわく「〈シカ〉ありき」で制作を進めたとのことで、アレンジのベースになるジャンルとして〈スカ〉を採用。実際に管楽器が全編でふんだんに使われているほか、特にサビ後半は裏打ちのリズムが強調されスカっぽさが増している。ちなみに、例のイントロ部分などでギターのブラッシング奏法が効果的に使われているが、これはもしかしたら作中でこしたんがのこたん(シカ)をブラッシングしてお世話することに合わせたのかもしれない。