音楽&映画ファンの要望に応えて10月6日(金)からアーカイブ配信決定
映画発表から30余年、間宮芳生による同映画音楽をオーケストラ演奏&朗読、そして画像で披露する音楽詩「火垂るの墓」初演をレポート

 1988年、僕が小学校低学年だった時に「となりのトトロ」と「火垂るの墓」が同時上映されたことを今もよく覚えている。当時は両作がスタジオジブリの作品だという認識はなかったが、自然と共存するトトロ、サツキとメイの姉妹を軸とする宮崎駿監督による心温まる物語とともに、戦時中の過酷な環境を前向きに、必死に生きようとした清太と節子の生涯、そして高畑勲監督の名が僕の心に深く刻まれた。

 「火垂るの墓」はその後も何十回も観たが、映画の音楽を担当したのが日本を代表する作曲家、間宮芳生(1929年~)であることを知るのはかなり後のことだ。9月17日、この火垂るの墓における間宮の音楽に焦点を当てた初めての舞台公演〈音楽詩「火垂るの墓」〉が同作の舞台である兵庫県西宮市で上演されると聞き、兵庫県立芸術文化センターに足を運んだ。

 同作は作家・野坂昭如の同名短編小説が原作で、妹の節子が終戦から約1週間後に西宮の横穴防空壕で亡くなり、さらに兄・清太が節子の死から約1か月後、神戸・三ノ宮駅で悲劇的な最期を迎えるまでを描く。物語のあらすじはその通りなのだが、ただ不思議と、いつ観ても悲劇の中に何か希望の光が感じられる。僕は今までその理由がよく分からずにいたが、その理由の一つが間宮の音楽にあると確信した。

 間宮の音楽は悲しげではあるが、絶望的な印象はない。間宮自身によれば、作曲の際に高畑監督からも暗くなりすぎないように要望があったようだ。実際、高畑監督は作中、4歳の節子が厳しい状況の中でも努めて天真爛漫にふるまう姿を描いた。物語が絶望的になりすぎないよう、音楽も重石のような役割を果たしたのである。ジブリの音楽は一般的に宮崎監督における久石譲だが、高畑監督における間宮もそれに比肩するほどの存在感がある。

 今回の舞台では声優の速水奨、石川由依、フリーキャスターの丸岡いずみが物語の朗読を担当。ソプラノ歌手の幸田浩子が映画でも挿入歌として流れる“埴生の宿”(もとは英国民謡”Home, Sweet Home”)を歌った。いずれも「火垂るの墓」の世界観を現出するのに大きな役割を果たしたが、何といっても山下康介指揮兵庫芸術文化センター管弦楽団の貢献度は大きかった。

 同楽団は世界的に活躍する指揮者、佐渡裕のもと長年活動を続け、特に毎年佐渡と取り組むオペラ上演は評価が高い。オペラの経験は今回の音楽詩にも存分に生かされ、兄妹の感情の揺れ動きや場面転換のタイミングで、細やかな喜怒哀楽の変化を表現。山下の静謐な編曲も作品の世界観に合致していた。

 「火垂るの墓」の前には、間宮が作曲した1970年大阪万博の記録映画「日本万国博」、高畑・間宮コンビ第1作目のアニメ映画「太陽の王子 ホルスの大冒険」の音楽も演奏され、幸田は“ヒルダの子守歌”を歌った。いずれもめったに聴けない作品で、日本の現代音楽作品の水準の高さを再認識する上でも重要だった。そう、間宮芳生が舞台や映画のために生んだ音楽は日本の財産なのである。

 


INFORMATION
全国の音楽&映画ファンのご要望にお応えして、兵庫芸術文化センター管弦楽団〈音楽詩「火垂るの墓」〉公演のアーカイブ配信(二次)が決定しました。
料金・視聴チケット:2,000円(税込)
チケット販売期間:2023年10月3日(火)15:00 〜 10月12日(火)20:00
配信期間:2023年10月6日(金)0:00 〜 10月12日(木)23:59
視聴チケット販売URL:https://l-tike.com/hotaruno-haka/

 

LIVE INFORMATION
原作:野坂昭如「火垂るの墓」(新潮文庫刊「アメリカひじき・火垂るの墓」所収)
音楽詩 火垂るの墓

2023年9月17日(日)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール ※終了
主催&企画制作:RENAISSANCE CLASSICS
開場/開演:15:15/16:00
原作:野坂昭如
作曲:間宮芳生
編曲&指揮:山下康介
演出・構成:上海太郎
演奏作品:音楽詩・「火垂るの墓」 ほか
演奏:兵庫芸術文化センター管弦楽団
出演:速水奨(ステージ上朗読・清太役)/石川由依(ステージ上朗読・節子役) ほか
https://classics-festival.com/rc/performance/hotaruno_haka_2023/