NEW ELLA
鮮烈なデビューを飾った生粋のR&Bシンガー、エラ・メイが待望のセカンド・アルバムをリリース。心の底をさらけ出してソウルフルなハートを注いだ『Heart On My Sleeve』は待たされた甲斐のある珠玉の一枚に仕上がってきた!
良し悪しの話ではなく、日本ではどうも一定の落ち着いたリズムのベッドルーム・ポップが一様に〈R&B〉と呼ばれるようになり、ジャンルというよりはサウンド・パターンの呼称と解釈されているようなところがある。多様な形のR&Bがあるのは承知しているし、そう呼ばれるものの聴き心地が一面的ではないのも当然ではあるけれど、やはり一定のニュアンスのヴォーカル表現が芯にあったうえでサウンド自体は時代と共に変わってゆくものがR&Bだとして流れで追っているリスナーであれば、〈R&B〉が増えた状況に多少の複雑な気持ちに駆られなくもない。
そんな状況が顕在化しつつあったからこそ、“Boo’d Up”が殊更に鮮烈な印象を残し、幅広い受け手から賞賛を浴びたのであろうことは間違いない。トラディショナルな流れを愛するリスナーの期待にジャストで応えるような楽曲であり、同時にそのまま遠心力を伴って広い層へ届くような同曲の魅力は、やはりエラ・メイという逸材の類希な歌声によって成立する逸曲だった。もともと2017年のEP『Ready』に収録されていた“Boo’d Up”は翌年のシングル展開を受けてUSのR&Bチャートで首位をマーク。それを受けて登場した初のフル・アルバム『Ella Mai』からは“Trip”などのヒットも続き、英国のシンガーながらエラ・メイはUSで確固たる支持を獲得した。
このたびリリースされた『Heart On My Sleeve』はそれ以来4年ぶりのセカンド・アルバム。後見人のマスタードはもちろん引き続き総監督を務めているが、直接的な関与の度合いは先行カット“DFMU”やオープニングを飾る素晴らしい“Trying”、ロディ・リッチを迎えた“How”など6曲のみとなり、先行ヒットを記録済みの“Not Another Love Song”はボーイ・ワンダ、抑制の効いたスロウの“Break My Heart”やSWVを連想させる絶品の“Sink Or Swim”は名匠Dマイル、“Pieces”はサー・ノーランといったように当代きってのプロデューサーたちが彩り豊かに手腕を競っている。全体的に明快な派手さが後退したのも好印象で、4年前より成熟した彼女の内面が赤裸々に反映された、歌にフォーカスできる一枚となった。
昨今の品評ゲームのように話題作のことを集中的に語ること自体が好きな人もいるのはわかるし、でも一方で、ただ単に好きなものを聴くのが好きな人もいる。R&Bが好きでたまらない人はぜひこちらをどうぞ。