ついに実現!
ファビオ・ビオンディ「シッラ」日本初演を語る
とうとう還ってくる。
2020年2月、新型コロナのパンデミックによる緊急事態宣言下で中止を強いられたヘンデル「シッラ」日本初演が、この10月に実現する。指揮のファビオ・ビオンディが情熱を注ぐこの作品の魅力とは。
「公演直前のキャンセルは本当にショックでした。舞台の準備もすっかりできていたのですから……けれどコロナ後の光の見えた時期に、素晴らしい日本の聴衆にこのオペラを届けられる意義は大きいと思います。
『シッラ』は、ヘンデルのオペラの中でも非常に美しく、インスピレーションに満ちた、ヘンデルの最高傑作の一つです。『シッラ』の前にヘンデルのオペラは6つか7つ演奏していますが、『シッラ』は音楽の質が高い。全体の8、9割の音楽が素晴らしいのです。美しさが凝縮されている。他のヘンデル・オペラでは質の高い音楽はせいぜい5、6割で、あとは慣習的な音楽になっていますから。
ストーリーも面白い。オーケストラにもバロック・オペラの性格が詰まっていて、バロック・オペラのプラットフォーム的な役割を果たしている作品です。演奏時間が短いのも、現代の観客にはとっつきやすいと思います。『シッラ』という作品に出会えて幸せです」
演出の彌勒忠史との息もぴったり。前回のヴィヴァルディ「メッセニアの神託」で共演して以来、全面的な信頼を寄せている。彌勒もまた、ビオンディの「グルーヴ感や疾走感、芯があって華やかなサウンド」に魅了されている一人だ。
「メッセニアの神託」では能からヒントを得たが、今回の演出は「オペラと共通項の多い」歌舞伎がヒント。美術、衣装、照明のチームも、彌勒が「尊敬してやまない」アーティストが揃った。
「みなさん、こちらのアイデアを10倍返しくらいで実現してくださるセンスと技術の持ち主です。衣装は歌舞伎の〈時代物〉にヒントを得て、衣装とメイクで役柄をわかりやすく表現しています。
舞台上で可動式の木枠を動かすのですが、それを伏見稲荷の鳥居のような朱色に染めました。県立音楽堂の壁や天井の木の色と親和性が高く、凱旋シーンの華やかさや神の登場シーンの荘厳さにもマッチする色だと思います」(彌勒)
今回が日本初演であることからも分かるように「シッラ」はマイナー扱いされてきたオペラだ。そんな埋もれた傑作を発掘したいとビオンディはいう。
「長く残る有名作品がある一方で、消えてしまう作品もあります。けれど、残っているものが質がいいとは限らない。『メサイア』は大変有名ですが、ヘンデルのオラトリオの中では駄作です。『ジューリオ・チェーザレ』が有名オペラになったのは、タイトルがわかりやすかったり、1950年代に録音が行われたりしたためでしょう。
そもそも音楽史が部分的にしか知られていない。特に20世紀の初めには、良いものがずいぶん失われてしまいました。『シッラ』も初演の記録もなく、忘れ去られてしまった。そのような状況をなんとかしたいのです」
パンデミックの時期に録音したバッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』でも、これまでの演奏が慣習に縛られたものだったことを再発見した。
「録音のオファーは前々からあったのですが、複雑で解釈が難しい作品で、時間や静謐さが必要なので先送りになっていました。コロナの時期、通常の活動ができないのは確かに大変ではありましたが、私にとってはいろんなことを振り返り、深く考え、また勉強ができた良い機会になったと思っています。バッハのこの作品についても、当時のやり方を振り返って深めることができました。
従来の演奏は、だいたい20世紀初めごろのスタイルのままなのです。けれど18世紀にはアルペッジョ一つとっても色々なやり方があったはずで、それを深めているアーティストは残念ながらいません。バッハは特に、触れてはいけない存在のようになっています。勇気を持って試すことが必要なのです」
今回の「シッラ」のキャスティングは、中止になった2020年とほぼ全く同じ。本作のために集まるのはあの時以来だ。
「個人的にカウンターテナーが苦手なので、バロック・オペラをやる場合は必然的に女性歌手が多くなります。女性歌手の方が、発声が自然ですから。女性ばかりですから、歌手を選ぶ際には声の〈色〉を重視します。ドラマや人物像を考え、声の色が重ならないように気をつけています」
ビオンディは、歌手の装飾も自分で書く。
「歌手の装飾も、私が8割がた担当します。自分でできる歌手もいるのですが、様式が違ってしまうこともあるので。とはいえ、ヘンデルの時代通りに再現することは不可能です。バロック・オペラの大きな要素であるダ・カーポ・アリアの魅力は、2度と再現できないところにあるのですから」
INFORMATION
音楽堂室内オペラ・プロジェクト第5弾
ファビオ・ビオンディ指揮 エウローパ・ガランテ ヘンデル『シッラ』全3幕
日本初演(イタリア語上演 日本語字幕付)
2022年10月29日(土)、30日(日)神奈川・横浜 神奈川県立音楽堂
開場/開演:14:00/15:00
上演時間:2時間40分(予定)
*開場中にファビオ・ビオンディと彌勒忠史によるプレトーク
■出演
音楽監督:ファビオ・ビオンディ(指揮・ヴァイオリン)
管弦楽:エウローパ・ガランテ
ソニア・プリナ(コントラルト/ローマの執政官シッラ)
ヒラリー・サマーズ(コントラルト/ローマの騎士クラウディオ)
スンヘ・イム(ソプラノ/シッラの妻メテッラ)
ヴィヴィカ・ジュノー(メゾ・ソプラノ/ローマの護民官レピド)
ロベルタ・インヴェルニッツィ(ソプラノ/レピドの妻フラヴィア)
フランチェスカ・ロンバルディ・マッズーリ(ソプラノ/シッラの副官の娘チェリア)
ミヒャエル・ボルス(バス/神) ほか
■スタッフ
台本:ジャコモ・ロッシ
演出:彌勒忠史 ほか
■チケット
一般発売2022年6月25日(土)Kame(かながわメンバーズ)WEB先行受付中!
全席指定
S席:15,000円
A席:12,000円
B席:10,000円
U24(24歳以下):7,500円
高校生以下:0円
車椅子S席:15,000円(付添1名無料)
チケットかながわ:0570-015-415(10:00~18:00)
チケットぴあ、イープラス、ローソンでも販売
*U24、高校生以下、車椅子(付添)はチケットかながわで取り扱い。枚数限定、要事前予約。引き取り方法により手数料がかかります
*未就学児の入場はご遠慮ください[有料託児サービスあり]
*ご来場前に必ず最新情報をご確認ください
■アクセス
JR・横浜市営地下鉄 桜木町駅から徒歩10分
みなとみらい線 みなとみらい駅から徒歩20分
京浜急行 日ノ出町駅から徒歩13分
(各公園開演前に桜木町駅から無料シャトルバスを運行)
主催:神奈川県立音楽堂[公益財団法人神奈川芸術文化財団]
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)/独立行政法人日本芸術文化振興会
共催:横浜アーツフェスティバル実行委員会
お問い合わせ(神奈川県立音楽堂):045-263-2567(9時~17時/月曜休館)