神奈川県立音楽堂 開館65周年を記念し、室内オペラ2作を日本初演!

 神奈川県音楽堂。平成から令和へと元号が代わる5月、その扉をふたたび開こうとしている。というのも1954年に開館した音楽堂は、昨年4月から約一年かけた大規模な改修工事にはいった。関東では近年、大型ホールの改修工事が相次いだ。老朽化、耐震補強などさまざまな事情があるだろうが、改修がアナウンスされるたび利用者から聞こえてくるのは響きの変化への懸念の声だ。なぜか。つまり音楽ホールはそこに持ち込まれるソフトとともに、長い時間をかけて来場者の耳を整音し、チューニングし、音楽への情操を育むハードだからだ。近隣地域の人々にしてみればホールは彼らの〈耳〉そのもの、なのだ。

 神奈川県立音楽堂が〈東洋一の響き〉と称されて多くの国際的なアーティストに愛されてきたことはいうまでもない。しかしそのホールが約1000人収容規模と知れば、大型化がすすむ多目的なハコになれた世代には随分とこじんまりした印象に映るのではないか。だがこのこじんまりとしたという事実には、とても大切な音楽的意味がある。それは音楽と音を奏でる人たち、そして耳を傾ける人たちとの距離の近さだ。

 音楽史を紐解けばより多くの聴き手を求めてホールは大きくなり、アンサンブルの楽器の数は増し、楽器はその形を変えてきたことがわかる。しかし我々はふと思い出す。小さな音、演奏者の楽器を触る微かな音、こうした微音が美音と呼ばれる響を生み出していたことを。そしてこの微音を美音に変化させる魔法のいくつかが音楽堂にもあることは、来場経験のある音楽ファンには明らかである。

 改修前から音楽堂が取り組む室内オペラ・プロジェクトは、音楽堂のこの利点を最大限に生かしたものとして高く評価されてきた。開館65周年を記念し2020年初頭の公演にむけてバロック・オペラと新作の二作品が準備中である。五年前に音楽堂でヴィヴァルデイで喝采を浴びたファビオ・ビオンディが取り組むヘンデルの「シッラ」と、「シェイプ・オブ・ウォーター」などの映画音楽のスコアを手がけてきたアレクサンドル・デスプラが取り組む川端康成の原作による「サイレンス」である。古楽器の倍音とサイレンス、どちらも音楽堂の微音を美音に変えるマジックを堪能するにはうってつけのプログラムである。

 音楽堂の響きを知ってもらう最適なCDを思い出した。『音楽堂』である。矢野顕子の弾き語りを音楽堂でレコーディングした作品だ。このホールのしっとりとした艶やかなサウダージを捉えた貴重な音源のひとつだ。そういう言えば6月1日にはホールの魅力を知るためのイヴェント、オープンシアターもある!

 


EVENT INFORMATION
オープンシアター2019 音楽堂で音・体験♪ 建築・探検!
2019年6月1日(土)神奈川・横浜 神奈川県立音楽堂
当日受付、出入り自由のオープンシアター。普段は入れない舞台の裏や床下をのぞいたり、コンサートがあったり、いつもと違う音楽堂に出会える一日です。ご家族一緒に、お散歩気分でお越しください!

開館65周年記念 音楽堂室内オペラ・プロジェクト
ヘンデル『シッラ』全3幕(イタリア語上演/日本語字幕付)日本初演

2020年2月29日(土)・3月1日(日)神奈川・横浜 神奈川県立音楽堂
音楽監督:ファビオ・ビオンディ(指揮/ヴァイオリン)
演奏:エウローパ・ガランテ
演出:彌勒忠史
戯曲:ジャコモ・ロッシ/ソニア・プリナ(コントラルト/シッラ)/マルティナ・ベッリ(メゾ・ソプラノ/クラウディオ) ほか

サイレンス(フランス語上演/日本語字幕付)日本初演
2020年1月25日(土)神奈川・横浜 神奈川県立音楽堂
原作:川端康成「無言」
音楽:アレクサンドル・デスプラ
演出:シャルル・シュマン 
衣装:ピエルパオロ・ピッチョーリ(VALENTINO)
演奏:アンサンブル・ルシリン/エマニュエル・オリヴィエ(指揮)/カミーユ・プル(ソプラノ)/ミハイル・ティモシェンコ(バリトン) 
語り:サヴァ・ロロフ 

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