Tempalayのドラマーとしても活動する藤本夏樹が初の本名名義でのソロ作『pure?』を発表した。これまではJohn Natsuki名義でソロ活動を行い、Tempalayには直接的に反映されていなかった彼のルーツ、ゴス、ポストパンク、インダストリアルといったジャンルを基盤とする扇動的な音楽性を特徴としていたが、『pure?』ではそこから一転、USの宅録音楽家たちと共鳴するサイケでドリーミーなローファイポップを展開。犬に囲まれてにこやかな笑顔を見せる私服姿のアー写からして、等身大の作品であることが伝わってくる。
この変化の背景についてはインタビューの中でたっぷりと語られているが、『pure?』というタイトルが示す〈純粋であること〉への強い傾倒は、藤本のアーティストとしての核にある部分だと強く感じる。「今後は藤本夏樹とJohn Natsukiの名義を使い分けて、より振り切った表現をしていきたい」とも話してくれたが、そのアプローチもやはり純粋さを担保するためだと言えよう。自身の過去を音楽という形に昇華したJohn Natsuki名義の『脱皮』(2020年)同様に、『pure?』もまた彼の音楽人生における重要な作品となったはずだ。
コロナ禍以降のテンションでパーソナルな表現をする
――まずは今回〈藤本夏樹〉名義で作品を発表するに至った経緯を話していただけますか?
「2020年の3月にJohn Natsuki名義で『脱皮』というアルバムを出したんですけど、もちろん作ってるときはコロナ禍になるなんて思ってなくて、リリース後はライブをしていこうと思ってたんです。でもコロナ禍になってしまって、あの作品のテンション感でライブをしたいとは思えなくなっちゃったんですよね。
それで一旦ストップすることにして、〈じゃあ、今の自分のテンションはどんな感じなんだろう?〉ということに向き合うようになって。それから1年くらい考えた結果、John NatsukiはJohn Natsukiであのカオスな方向性をキープしながら、また別の名義で作品を出そうかなと思って、去年の5月とか6月くらいから曲を作り始めました」
――去年の4月にはJohn Natsuki名義で『Peace In The Cage』というEPがリリースされていますが、あの作品を作ったときはどんなテンション感だったのでしょうか?
「あれを作ってるときに、〈今自分がやりたいのは振り切った表現ではないのかも〉と思うようになって、このままJohn Natsukiとして作るのはちょっと違うなと思ったんです。そもそもJohn Natsukiは自分の中の負の感情……とも言い切れないんですけど、自分の中のわりと強めな感情を体現するためのプロジェクトだったので、そこに当てはまらなくなってきたというか。だから、あのEPの曲ももちろん気に入ってはいるんですけど、転換期ではありましたね。
コロナ禍になって、ライブができなくなった中で、試しに3曲作ってみて、自分でミックスとマスタリングまでやった上で、より今の自分のテンションでパーソナルな表現をしたいと思ったときに、本名名義でやろうと思ったんです」