Tempalayのドラマーがめざしたのは、作り手さえも驚かすサウンド。脳を揺らせるダンス・ミュージックにすべく施された、数々のランダムな仕掛けを解き明かす!

 Tempalayのドラマーとしても活躍する藤本夏樹がセカンドEP『RANDOM』を完成させた。USインディー譲りの宅録サイケ・ポップが心地良かった前作『pure?』からは一転、クラブ・イヴェントへの出演を機に制作された本作は〈踊れる音楽〉を念頭に置いたもの。しかし、『RANDOM』に収録されているのは、いわゆるフロア・バンガーなダンス・ミュージックではない。物悲しさ漂うエレピによるイントロダクション“boneless”に続く“Why?”は7拍子を基調とするミニマルな仕上がりで、スピリチュアルな魅力を放っている。

藤本夏樹 『RANDOM』 SPACE SHOWER(2023)

 「4つ打ちも好きなんですけど、もっと陶酔できるダンス・ミュージックをやってみたくて。基本的にひねくれたものが好きなので、ただ踊るよりグニャッと踊りたいんですよね。昔からレディオヘッドが大好きだし、ザ・スマイルも一時期よく聴いていて、彼らはバンド・サウンドですけど、アナログ・シンセやリズムマシンを使いつつ、ああいう変拍子感を取り入れてみたいと思いました。ジョイ・ディヴィジョンからニュー・オーダー的な、バンド音楽を〈エレクトロニックの機材でやる〉みたいな感覚かもしれないです」。

 EPのラストに収録された“Signal”は2つのミニマルなピアノのループが曲を通して鳴り続けながら、その音色や音像が刻一刻と変化して行き、その偶発的なおもしろさが『RANDOM』というコンセプトを象徴している。

 「レディオヘッドの“Bloom”が8分のループ・フレーズとスネアの3連符が混ざることでグネッとしたグルーヴになっていることにおもしろみを感じたので、そのアイデアを両方ピアノのループで試してみたのが制作のきっかけでした。そのループが途中でワイドに広がったり、フィルターがかかったり、逆再生になったりする。FMシンセのキラキラしたシーケンスもフィルターやレゾナンスのかかり具合いが時間と共に変化していくんですけど、それは〈シンセが生きている〉感じを意識して。AIじゃないですけど、そういう世界観が好きなんです。〈人間のような挙動をする機械〉みたいな。シーケンスで〈ここのキックは90%の確率で発音する〉みたいな設定にすると、自分も知らないところでキックが急に抜けたりして、同じループのようでランダムなフレーズが出来上がっていく。単純なループ・ミュージックだとすぐ飽きちゃうなと思って、作りながら毎回ハッとさせられるようなギミックを詰め込みました」。

 “Beautiful Waves”は本作のコンセプトを踏襲しつつ、よりアンビエント色の強い仕上がりで、讃美歌のようなコーラスも印象的だ。

 「“Beautiful Waves”のシンセ・フレーズも発音のパーセンテージが定められていて、鳴るときもあれば鳴らないときもあるし、ドラムもキックが抜けたりスネアが抜けたりする。全部自分が設定してるんですけど、動き出したら自分の思った通りには動かないというか、〈決められたルールのなかで楽器たちが遊んでる〉みたいにしたくて。この曲は音数も少なくて、シンセ1本とベース、キック、スネアしかないこともあり、すごく潜れるというか、いい陶酔感を生み出せたと思います」。

 パーソルな表情が強かった前作に対し、歌詞からはSNSなど現代の社会に対する目線が感じられ、藤本のもうひとつのペルソナである〈John Natsuki〉の世界観を連想させる部分も。しかし、聴き手と自分自身に対して〈純粋さ〉を問いかけ続ける姿勢は、名義や作風が変わっても通底している部分だと言えよう。

 「前作みたいに言葉自体にはあまり意味を持たせず、響きだけで言葉を選んでいく方法もいいんですけど、今回アグレッシヴな曲を作ったときに、もう少し具体性を持たせてもいいのかなって。〈輪になって踊ろう〉みたいなことを歌いたい気持ちはマジでなくて(笑)、聴いたときに何か突き動かされたり、えぐられるような感覚に自分自身がなりたいので、そういう状態を導くような言葉を選んでる感じですね。聴いてくれる人に対して〈こう考えろ〉みたいな気持ちはあんまりないですけど、曲に没入した結果、何かを考えるきっかけになるみたいな、それくらいのものであったらいいなと思います」。

左から、John Natsukiの2020年作『脱皮』(SPACE SHOWER)、藤本夏樹が楽曲提供した7ORDERの2023年作『DUAL』(コロムビア)