イギリスのバンド・シーンが新たな季節を迎え、ブラック・カントリー・ニュー・ロードの『For the first time』や、ドライ・クリーニングの『New Long Leg』といった話題作のリリースが続く中、シーンの顔役であるスクイッドが初のフル・アルバム『Bright Green Field』をワープから発表した。

ブライトン出身の5人組は、アンビエントやジャズを共通の趣味に持ちつつ、70年代のクラウトロック/ジャーマン・ロックへと傾倒し、現在の音楽性を構築。2019年発表のEP『Town Centre』に続き、現在のサウス・ロンドンの盛況を作り上げた重要人物であるプロデューサーのダン・キャリーを迎えて制作された『Bright Green Field』は、熱狂を呼ぶグルーヴにジャズの知性とクラブ・カルチャーからの反響が交わった傑作であり、すでに全英4位という結果を残してもいる。

そんな活況を呈するシーンを興味深く見つめていたというのが、Tempalayのドラマーであり、近年はソロ活動も活発化しているJohn Natsukiこと藤本夏樹。もともとヴィジュアル系から入ってジョイ・ディヴィジョンやキュアーを知り、ポスト・パンク、ゴス、インダストリアルといったジャンルを聴き漁ってきたという藤本は、Tempalayへの加入に伴い一時期はUSに接近していたものの、近年の〈ポスト・パンク再興〉に端を発するバンド・シーンの新たな盛り上がりによって、再びUKに呼び戻されたのだという。

Tempalayという独自のエクレクティシズムを持つバンドで活動し、音圧よりも音像を重視するドラマーである藤本から見た現在のUKシーンについて、様々な角度から話を訊いた。

SQUID 『Bright Green Field』 Warp/BEAT(2021)

 

最近のUKはめっちゃ面白い

――夏樹くんがサウス・ロンドンを中心とした近年のUKのバンド・シーンを面白いと感じるようになったのはいつ頃からで、どんなきっかけでしたか?

「さかのぼって考えると、まずキング・クルールが出てきたときに、めちゃめちゃ面白いことをやってるなと思いました。ジャジーだけど、洗練され過ぎてないドロドロ感みたいなのがUK特有だなと思って、すごく好きになったんですけど、ただそれはシーンがどうこうというより、キング・クルールというアーティスト単体を面白いと思ったんですよね。

キング・クルールの2012年のシングル“Rock Bottom”

もともと聴いていたポスト・パンクみたいな文脈に関しては、正直もうこれ以上先がないというか、〈だったら、ジョイ・ディヴィジョンを聴いてればいいかな〉みたいな感じで(笑)、現行で面白いと思うものは正直あんまりなかった。でも、スクイッドとかブラック・ミディを知って、最近はめっちゃ面白いなって」

――一時期HMLTDにすごくハマっていたそうですね。

「1年前くらいにハマってました。でも、あれも直系のポスト・パンクではないじゃないですか? もともとラ・シャーク(La Shark)が好きだったんですけど、あんまり活動しなくなっちゃって、勿体ないなと思ってたところで、HMLTDの存在を知って。それこそウィンドミル(ブリクストンのヴェニュー)で誰がやってるのかを調べ出すきっかけではありましたね」

ラ・シャークの2013年作『Limousine Mmmm...』収録曲“Magazine Cover”

HMLTDの2020年作『West Of Eden』収録曲“To The Door”

――少し前までは便宜上〈ポスト・パンク〉で括ってるような部分がありましたけど、でも今のイギリスにはもっといろんな音楽性のバンドがたくさんいて、この1~2年でそれがよりはっきりしましたよね。

「そうですね。同じシーンでやってるのかもしれないけど、ミックスの方向性も全然違うし、曲の作り方もバラバラで……でもどこか共通してる部分があって、それが僕が昔から好きなUKの〈洗練され過ぎない〉感じなのかなって。最近のバンドはホーン・セクションが入ってたり、ジャズ的なアプローチをしてたりもするけど、それもやっぱり洗練され過ぎずに溶け込んでるのがめちゃめちゃ面白くて」