アニソン界を代表するシンガーのtowanaといえば、fhánaのメインボーカリストだ。2012年にfhánaへ加入して以来、透明感のある歌声と繊細な詞世界で国内外のファンを魅了してきた。そんなtowanaが、なんとソロアーティスト〈Towana〉としてデビューした。ファーストシングルは、TBSドラマストリーム「理想ノカレシ」のエンディングテーマ“ベール”。fhánaの佐藤純一が作曲し、アートディレクションを含むトータルプロデュースを行った渾身の一曲だ。これまでと異なる表情を見せ、新たな扉を開いたTowana。その表現について、Towanaと佐藤、編曲の須藤優(XIIX)への質問の回答をもとに、ライターの坂井彩花が綴った。 *Mikiki編集部

Towana 『ベール』 U/M/A/A(2022)

 

ソロアーティスト〈Towana〉だからこその新たな才能を開花

――fhánaでボーカルを務めているtowanaは、こんな一面も持ち合わせているのか。

彼女がソロの〈Towana〉名義で初めてリリースした“ベール”を聴いていると、そう思わずにはいられなかった。とはいっても、fhánaはこれまでにシングルを16枚、アルバムを8枚リリースし、2022年に結成10周年を迎えた、堂々としたキャリアを誇る中堅の音楽ユニットだ。彼らが重ねてきた年月や楽曲数を顧みると、〈これがtowanaというボーカリストだ〉というものが定まっていてもおかしくないだろう。

しかし、彼女はボーカリストのTowanaとして、新たな才能を開花させた。fhánaのメンバーとして磨いてきた魅力も活かしながら、ソロだからこそのアプローチを体得したのである。

“ベール”

 

自身と対話をするかのように歌を紡いだ“ベール”

“ベール”を耳にして一番驚いたのは、歌のなかにひとりの女性が佇んでいたことだ。fhánaで歌っているときにも、もちろん気持ちは乗っていたし、表現や綴ってきたリリックに嘘があったとは思わない。それを踏まえても、ソロのボーカリストとして歌う彼女は、清々しいほどに生身だった。fhánaという服を脱ぎ捨てて、自分自身と対話をするかのように歌を紡いだのである。

Towana自身も「fhánaよりもソロのほうが、楽曲そのものやレコーディングの際の歌へのこだわりが強くなった。というよりも、自然にそうなっていて自分でも驚いた。同時にバンドに守られていたことも実感したし、Towanaという自分の名前で曲を発表することで感じる責任がここまで変わるのか」と話しており、無意識のうちに自身のカラーを強く打ち出していたことがうかがえる。〈自分の名を背負う〉ということが、今までと違う気持ちで音楽と向き合わせ、ボーカリストとしての新たな一面を発揮するまでに導いたのだ。

 

作詞家として新たな扉を開いた〈恋愛〉がテーマの歌詞

また、今作ではリリックのテーマが〈恋愛〉になっているのも注目ポイントだ。fhánaにもTowanaが作詞を担当した楽曲はあるが、希望や愛をモチーフとしていることもあり抽象度が高く、大きな世界観を描きだすようなアプローチになっている。一方で“ベール”は、届けたい誰かを想像できてしまうほどにパーソナルだ。

「ドラマ『理想ノカレシ』に合うものにしようと思い、歌詞のテーマが恋愛に。作品側からアドバイスをいただきつつ〈あなた〉とはっきり書いたことがキーになった」とTowanaも語っており、主人公である優芽子の心情を丁寧に落としこんだことが、作詞家として新たな扉を開いたことは間違いないだろう。〈恋愛〉という新たなテーマと向き合うことによって、彼女が得意とするリズミカルかつ響きを大切にした言葉の配置を活かしながら、個人的な心情を描き出すことに成功したのだ。