©Chris Maggio

現実と虚構のフィルターを通じて自身の経験を描いた新作が完成。最良の録音環境を追求して表現された普遍的な信仰心、祈り、神の姿とは……

 エリオット・スミスを彷彿とさせる歌声が紡ぐ内省的なメロディーと、アメリカーナからエクスペリメンタルまでを自在に交差させるローファイ・サウンド――歌心と前衛性をユニークなバランスで融合しながら、アレックスGことアレックス・ジアンナスコーリは音楽家としてのキャリアを歩んできた。

 オルタナ・カントリーやエモに通じる音楽性はまぎれもなくUSインディーの系譜にありつつも、フランク・オーシャンの『Blonde』と『Endless』にギタリストとして参加したり、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの“Babylon”で歌声を響かせたりと、立ち位置はかなり独特。2010年代の前半に登場し、もはや10年選手と言えるアレックスだが、なんともつかみどころのない風来坊的なスタンスを貫いている。

 93年生まれの彼はペンシルヴァニア州出身。10代の頃からBandcampに精力的に音源を発表していたところ、ブルックリンに拠点を置くレーベル、オーキッド・テープスに発見され、2014年に通算5作目となる『DSU』を同レーベルからリリース。アメフト選手のイラストがあしらわれたジャケットが印象的なこのアルバムは、生々しい楽器の鳴りと共にメランコリアを描く様がピンパックやビルト・トゥ・スピルを引き合いに出され、高く評価された。意外にもそういったエモ・バンドをアレックスはほとんど聴いたことがなかったそうだが……。

 以降は大手のドミノと契約し、『Beach Music』(2015年)、『Rocket』(2017年)、『House Of Sugar』(2019年)とコンスタントにアルバムをリリース。特に後者2作は、ロウな魅力を残しつつ、ソングライティング面での練磨とストリングスの導入などアレンジ/プロダクション面での向上に力点が置かれた印象で、これまで以上の賛辞を集めた。とはいえ、ノイズまみれのなかラップめいたヴォーカルで叫んだり、チップマンクス的な変声を重ねたりと、持ち前のフリーキーな感覚も印象深い。

ALEX G 『God Save The Animals』 Domino/BEAT(2022)

 そして、今年本国で一般公開された青春ホラー映画「We’re All Going To The World’s Fair」のドローンなサントラを手掛けたのを経て、オリジナル・アルバムとしては3年ぶりに届いたのが新作『God Save The Animals』である。これまでの作品同様、アレックスの姉レイチェルがアートワークを描いているが、今回のモチーフは枯れ木にとまる鳥たち。アルバム名に加えて、“Mission”“Miracles”“Forgive”といった曲名から宗教性の強い内容を連想してしまうかもしれないが、実際は特定の信仰を歌ったものではなく、むしろシンボリックなフレーズを使うことで、聴き手の自由な解釈を引き出したいという意図もあるのだろう。

 移ろいゆくものに想いを馳せつつ〈でも、神は傍にいてくれた〉と歌う“After All”にはジェシカ・リー・メイフィールドがゲスト・ヴォーカルとして参加。さらに『Rocket』以降のアルバムには欠かせないアレックスのパートナー、ヴァイオリン奏者のモリー・ガーマーが今作にもクレジットされている。また、現在のバンド・メンバーが揃って初参加した楽曲もあり、アレックスにとってはこれまで以上に他者との化学反応を意欲的に採り入れた作品である。

 その狙いは、複数のスタジオに跨って6人ほどのエンジニアで録音したという制作環境にも表れており、曲ごとのプロダクションの違いも本作の聴きどころ。アルバム全体の曲調としてはさらに〈歌もの〉としての完成度を高めた印象だが、オーディオスレイヴの“Like A Stone”がインスピレーション源になった(!)というミニマルかつノイジーな“Blessing”などからは、実験性が健在であることも窺える。

 このアルバムで描かれているキャラクターは、高次の何かに捧げるかのような生き方を選び、そうした営みをただ見てほしいと呼びかけているようだ。その何かを〈神〉と推察するのは容易いが、アレックスの言葉を思い出すなら、聴き手は恋人や家族、あるいは憧れのヒーローといった指針となる存在を自由に投影するのがいいのだろう。アレックスにとっては今作に関わった仲間たちに向けて歌った音楽なのかもしれない。これまででもっとも親密で、心に清らかさをもたらすかのような『God Save The Animals』を聴いていると、そう思わずにはいられないのだ。

アレックスGの作品を一部紹介。
左から、2014年作『DSU』(Orchid Tapes/Lucky Number)、  2015年作『Beach Music』、2017年作『Rocket』、2019年作『House Of Sugar』(すべてDomino)

 

アレックスGの参加した近作を一部紹介。
左から、ナッシングの2020年作『The Great Dismal』(Relapse)、エターナル・チャンピオンの2020年作『Ravening Iron』(No Remorse)、ジャパニーズ・ブレックファストの2021年作『Jubilee』(Dead Oceans)