INTERVIEW

(サンディ)アレックス・G、フランク・オーシャンも惚れ込む若きSSWの実像

フォークもエレクトロニカも聴こえる新作『House Of Sugar』インタヴュー

Photo by Sandy Tonje Thilesen

フォークで、ローファイで、エレクトロニックなアレックス・Gの音楽

2019年9月12日、(日本時間では)早朝。ダニエル・ジョンストンの訃報が届けられたTwitterのタイムラインでは、ミュージシャンや音楽ファン、ライターたちが続々と追悼の投稿をしている。それを見ながら、なんとなく(サンディ)アレックス・G(以下、アレックス・G)のことを思った。彼の音楽は、ジョンストンのパーソナルでアウトサイダー的なベッドルーム・フォークとどこか似ているからだ。

アレックス・Gの音楽はとてもユニークだけれど、同時に過去のさまざまな音楽を思い出させる。フォーク、カントリー、もちろんロック、それにローファイやエレクトロニック・ミュージック……ジャンルもごちゃまぜだ。

彼の作品は、一聴してローファイ・フォークがゆったりとした調子で歌われているだけのようにも感じる。が、注意深く耳を傾けてみると、いくつもの層が重なっていることに気づく。上に書いたようなジャンルの断片が見え隠れするし、しかも、どこか奇妙にゆがんでいる。そして、彼のそんな独特の音楽世界は、このたびリリースされたすばらしい新作『House Of Sugar』で、ひとつの極点に達しているように思う。

英名門インディー・レーベル、ドミノからの3作目。とはいえ、アレックス・Gというシンガー・ソングライターと彼の作品については、まだまだ日本のリスナーにしっかりと紹介されていないように感じる。ということで、本稿ではアレックス・G本人へのインタヴューを引きながら彼の魅力を伝え、さらにはどんな音楽家であるのかを考えてみたい。

(SANDY) ALEX G House Of Sugar Domino/BEAT(2019)

 

オルタナもエレクトロニカも、両方がルーツ

イントロダクションに書いたように、彼の音楽からはさまざまなジャンルの断片が聴こえてくる。だからまず疑問に思うのは、彼のルーツはどこにあるのだろう、ということ。〈あなたの音楽を聴いていると、エリオット・スミスとエイフェックス・ツインとフォー・テットの音楽が同時に鳴っているように感じます〉という素朴な感想を伝えてみると、アレックス・Gはこう答えた。

「すごいな。僕は若い頃、彼らの音楽ばかり聴いていたよ。昔はエリオット・スミスをずっと聴いていたし、エイフェックス・ツインもずっと聴いていた。フォー・テットはあまり聴いていなかったけど、ザ・ナイフはすごく好きで。あと、モデスト・マウスも若い頃によく聴いていたんだ。この4アーティストは、いまの僕に影響を与えていると思う」。

ということは、やはり90年代後半から2000年代のオルタナティヴ・ロックとテクノやエレクトロニカを同時に聴いていた経験があるからこそ、現在のアレックス・Gの音楽が生まれているのだろう(Monchicon!によるインタヴューでは、ボーズ・オブ・カナダの名前も挙げている)。〈ジャンルは死んだ〉〈ポスト・ジャンルの時代〉とも言われる昨今、アレックス・Gの音楽もまた、ものすごく現代的な音だと感じる。

『House Of Sugar』収録曲“Southern Sky”

 

フィラデルフィアの音楽家として

もう少し詳しく彼の出自を見てみよう。本名アレクサンダー・ジアナスコーリ。93年生まれの、現在25歳か26歳。アメリカのペンシルベニア州ハヴァータウン出身で、いまは同州フィラデルフィアが拠点。同地とアレックス・Gの音楽には関係があるのだろうか?

「ハヴァータウンは典型的な郊外の町だよ。フィラデルフィアから電車で20分くらいのところにある。若い頃から友だちとフィラデルフィアに行って、ライヴ会場や知り合いのパーティーで演奏していた。フィラデルフィアは僕の音楽に影響していると思う。いつでもどこかで音楽を演奏する機会があったからね」。

フィラデルフィアはスティーヴ・ガン、カート・ヴァイル、ウォー・オン・ドラッグスといった、フォークやアメリカーナとの接点を感じさせるインディー・ロック・ミュージシャンたちを輩出している。そこにアレックス・Gの音楽との関連性を見い出すこともできるだろう。

 

ウィキペディアを編集しないと……

では、ジアナスコーリ少年はいかにして〈アレックス・G〉(2017年に他のミュージシャンとの混同を避けるために〈(サンディ)アレックス・G〉とした)になったのか? ウィキペディアには4歳で両親と音楽制作を始め、EP『Baby Songs』を作ったと書いてある。

「(爆笑)。嘘だろ? それはみんなに訊かれるんだ(笑)。でも本当じゃないよ! 〈Baby Songs〉について質問されるたび、毎回笑っちゃうんだよね。おもしろすぎ。でも、それはまったくのデタラメだから。4歳の子供が音楽を作って発表するなんて……。マジかよ。ウィキペディアを編集しないと……」。

というわけで、彼が音楽を始めたのは10代から。当時は姉(おそらく、アートワークを手掛けるレイチェル)と〈ゴス・テクノ〉を作り、ポップ・ロック/パンク系バンドの〈The Skin Cells〉で活動していた。その後、2010年頃からBandcampを中心に作品を発表していく。

 

僕とリスナーの間の距離はものすごく近くて、直接的な関係があるんだ

筆者がアレックス・Gの作品を初めて聴いたのは、2014年にオーキッド・テープスからリリースされたアルバム『DSU』だ。Bandcampで音楽を掘る者たちや原宿のレコード・ショップ、BIG LOVEに足しげく通うインディー・ミュージックのファンたちがSNSで話題にしていたことが、そのきっかけだったはず。ブログやウェブ・メディアなど、インターネットでの評判が彼の音楽を広く知らしめたのは確かだろう。

「そうだね。インターネットのおかげで僕の音楽は広まったし、だからこそ自分が作りたい音楽を一人で作ることができた。音楽を売ろうとする外の力に頼ったり、外の人たちの趣味や方針に合わせたりしなくても、ファンが付いてくれた。僕とリスナーの間の距離はものすごく近くて、直接的な関係があると感じられるんだ」。

外圧を感じることなく、パーソナルかつインディペンデントに理想とする音楽を追い求め、かつリスナーがそれを受け入れるという健康な関係性。2012年作『Trick』以前の4作(彼が発表したアルバムは『House Of Sugar』も含めて8作。早熟にして多作家なのだ)は自主制作だが、ドミノから作品を発表するようになったいまでも、創作面での自由は守られているように感じる。

2014年作『DSU』収録曲“Harvey”

 

フランク・オーシャンのレコーディングに参加はしたものの

それがゆえに、彼にはちょっと浮世離れしたところも。近年、アレックス・Gの名を一躍有名にしたフランク・オーシャン『Endless』『Blonde』(共に2016年)への参加について訊いても、返答はそっけない。あまりにも訊かれすぎて、飽き飽きしているのかもしれないが……。

「UKツアー中にメールが来て、〈ギターのレコーディングをしに来てくれないか?〉と言われたから、〈いいよ〉と答えたんだ。その後も何度かスタジオでレコーディングしたけど、シンプルな感じだった。(フランク・オーシャンがどんなアーティストかは)よく知らない。すごくいい人だったよ」。

フランク・オーシャンの2016年作『Blonde』収録曲“Self Control”。(サンディ)アレックス・Gのギタリストとして参加している

 

歌詞がどう解釈されるかは気にしない

彼の〈浮世離れ感〉について言えば、言葉の扱い方にもそういう向きがある。抽象的な歌詞や〈House Of Sugar〉という新作のアルバム・タイトルについて訊くと、「どんな意味かという、明確な答えはないよ。ただ響きがいいと思って。歌詞はメロディーを伝えるために、すごくゆるい感じで使われているものがほとんどなんだ」と語る。

「歌詞を聴いた人が、自分の考えを投影できるようなものにしたくて。明確な考えに誘導させたくはないんだ。他の解釈があるのなら、それでも全然気にしない(笑)。よりかっこいい解釈があるのなら、そっちに合わせてもいいや(笑)」。

『House Of Sugar』収録曲“Near”

作詞以上に彼のソングライティングで重要なのは「コード進行とメロディーを書くこと」で、「その2つは同時に作られる」。

「だから、その2つがまず完璧じゃなければいけない。その基盤が出来たうえで、サウンドの実験が自由にできるんだ。自分が好きなコードとメロディーがないと、制作の集中力が続かないんだ」。

それゆえ、とても感覚的な、ある意味ではどこか〈天然〉な音楽家だとも感じる。グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」を下敷きにしたと思しき“Gretel”や〈House Of Sugar(砂糖の家)〉というアルバム・タイトル、それに姉のレイチェルが描いたカヴァー・アートを取ってみても、彼のファンタジックな志向性が透けて見える。そしてそれは彼のドリーミーなサウンドとも共振している。

『House Of Sugar』収録曲“Gretel”

 

薬物依存の問題は、僕がここ数年でかなり影響を受けたものの一つ

だがアレックス・Gは、現実とまるで無関係な、夢見がちなシンガー・ソングライターだというわけではない。“Hope”の歌詞に出てくる〈フェンタニル〉とは、プリンスの死因にもなった向精神薬だ。精神薬依存の問題は、現在のアメリカでは無視できないほど大きい。

「アルバムの曲には、過度な道楽や甘やかしといったテーマのものが存在している。現在のアメリカには大きな問題が山のようにあるよ。なかでも薬物依存の問題は、僕がここ数年でかなり影響を受けたものの一つだった。フェンタニルを過剰摂取して死んだ知り合いが何人もいたから……」。

『House Of Sugar』収録曲“Hope”

 

アレックス・Gの音楽は〈いるべき場所〉を定めない

彼はこの先もパーソナルな手触りの、いびつなベッドルーム・ミュージックを作っていくだろう。けれどもアレックス・Gは、社会のアウトサイダーにはなりきらない。目の前にあるアクチュアルな問題を見つめながら、不思議なバランス感でそれを幻想的かつ多様な解釈をゆるす世界観へと昇華する。その両義性や〈ゆらぎ〉はまた、ローファイ・フォークやエレクトロニック・ミュージックが混在した彼の音楽性とも相似形を描く。

『House Of Sugar』は、温もりに満ちたシンプルなルーツ・ロック“SugarHouse”のライヴ・レコーディングで締め括られる。アウトロの短い歓声は、ベッドルームで作られた彼の音楽が広く開かれたものであることを証明しているだろう。〈いるべき場所〉を定めない(サンディ)アレックス・Gの音楽は、無限の可能性を持っている。

(サンディ)アレックス・Gのパリでの弾き語り映像

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