孤独と叙情を無垢な電子音で紡いだ、ピュアトロニックな快作がいよいよ日本上陸。興味深いコラボレーションも織り交ぜた問答無用の気持ち良さに射たれて……

 

 「僕の住んでいる街には、関われる音楽シーンというものが存在していなかったから、よくコンピューターの前で時間を過ごして新しい音楽を探していたよ。国境を超えて聴いたことのない音楽にたくさん出会えるなんて楽しいじゃないか。中学生から高校生にかけては、かなりアンダーグラウンドな音楽ばっかりを探していたね」。

RYAN HEMSWORTH Alone For The First Time Secret Songs/Last Gang/BEAT(2014)

 昨秋のセカンド・アルバム『Alone For The First Time』が、ボーナス・トラックを5曲加えた〈+5〉仕様で日本盤化されるライアン・ヘムズワース。カナダはハリファックス出身、90年生まれの彼はボーダレスな活動ぶりで知られる人で、最近は特に日本の音楽への造詣の深さでも知られている。そのように自由にさまざまな国やシーンの音楽を楽しむ作法は、子供の頃に育まれたようだ。みずから音楽制作を始めた契機はそれよりも少し遡って「12、13歳の頃に、いとこにギターを教えてもらったのがきっかけ」だという。

 「そのいとこのバンドがカッコイイと思って、自分もああなりたいって思ったのさ。それでギターを弾きはじめた。コンピューターにも時間を費やしていたから、コンピューター・オタクのロック・オタクになったよ。そして気がついたら音楽プロデューサーさ(笑)。自分で音楽を聴くようになってからは、エリオット・スミスブライト・アイズカーシヴとかエモコアと呼ばれるような音楽を好んで聴いていた。高校に入ってからヒップホップ、ラップを聴きだして、エレクトロニック・ミュージックやダンス・ミュージックを聴くようになった。そして年を取るにつれてサウンドの技術的な面が気になっていったんだ」。

 ラナ・デル・レイフランク・オーシャングライムスらのリミックスに、メイン・アトラクションズスターリートらへのトラック提供などを通じて名が知られるようになっていったライアンは、2013年にラスト・ギャングから初のアルバム『Guilt Trip』を発表。そこでは夢心地なダウンテンポがセンシティヴなヴォーカルと共に繰り広げられていたが、ウェイヴ・レーサーと共作した昨年の“Destroyed”に至るまで、7インチやデジタル限定、フリー配信など多様な形で楽曲を世に出している彼のこと、アルバムという形式にパックすることに意味はあるのだろうか?

 「曲が完成して、アップロードして、人に聴いてもらって、ダウンロードしてもらうっていうことは、僕にとってとても自然なことで、楽なんだ。オンラインには誰がダウンロードしてもいいような、出来上がったばっかりで、いま聴かせたいと思う単曲やリミックスをアップしている。でもフィジカルはアルバムとしてパッケージ的に考えるから、30分なり60分なりの時間を経過しても聴いてられるような、統一感のある作品を心がけているよ」。

 その言葉通り、今回の『Alone For The First Time』には前作以上のシンプルさと共通するトーン&マナーによってもたらされたナチュラルな統一感がある。

 「このアルバムは、去年フェスやライヴで演奏していた時の影響が反映されている。自分のコンフォート・ゾーン……耳に心地良い生楽器だったり、良質な歌モノだったりといった音楽からはかなり飛躍した作品になったかな。それと、とても激しいEDMフェスとかの合間にホテルで制作していたりしたから、そういう強烈なものとは違う、静寂のサウンドを求めていたのかもしれないね」。

 可愛らしい電子音やベースの滲みにロンタリウスアレックスGといった面々の歌唱が内省を重ねる作りは、ある種のシンガー・ソングライター的なものだ。ボートラに並ぶQrionTomgggtofubeatsとのコラボはそれぞれに鮮やかな音風景を描き出すものだが、いずれも作品の空気を変えることなく別角度からの淡い輝きを放っている。

 「例えば“Snow In Newark”を作っている時には、すでにドーン・ゴールデンが頭に浮かんでいたし、本当に自分が好きなアーティストで曲に合う人を選んだよ。自分が高校生の時にレディオ・デプトをよく聴いていたんだけど、今回はなんとなくその時のハイスクール・ヴァイブな気分に戻る感じが欲しかったんだ」。

 今後コラボしたい夢の名前としてきゃりーぱみゅぱみゅを挙げるライアン。〈新世代〉と呼ぶのは安直すぎるわけで、これが〈現世代〉である。