インタビュー

畠山美由紀 『歌で逢いましょう』 Part.1

歌い手の人生を刻んだ演歌や歌謡曲に、畠山美由紀の歌で逢いましょう

畠山美由紀 『歌で逢いましょう』 Part.1

 まだ〈J-Pop〉という言葉がなかった頃、日本人の心に寄り添っていた歌は、〈歌謡曲〉や〈演歌〉と呼ばれていた。いまではどちらも懐メロのように扱われがちだが、そこには時代を越えて日本人の魂に触れる何かがある。その〈何か〉を探す旅、それが畠山美由紀の新作『歌で逢いましょう』だ。演歌と歌謡曲のカヴァーで構成された本作の発端は、10年前の出来事だった。

畠山美由紀 歌で逢いましょう ランブリング(2014)


  「今回プロデュースをしていただいた沢田穣治さんと沖縄でご一緒したときに、ジュークボックスのあるおでん屋さんに行って美空ひばりさんの“津軽のふるさと”をカラオケで歌ったんです。それを聴いて沢田さんが〈絶対、演歌やったほうがエエで!〉って。ライヴなどで歌わせていただく機会はあったのですが、私もいつか自分の作品として演歌や歌謡曲をやりたいと思ってたんですよね。それで今回、ようやく私と沢田さんのタイミングが合ったんです」。   

Port of NotesDouble Famous、ソロなどを通じ、ジャンルを感じさせない歌で注目を集めてきた畠山。そして、ショーロ・クラブの活動を中心に、ブラジル音楽からJ-Popまで多岐に渡る分野で活躍する沢田。そんな両者だからこそ、演歌/歌謡曲の深淵に触れることができたに違いない。「原曲の美しさとイメージを大切にして、そこから遠くならないように」という方向性の下、アレンジや参加メンバーも沢田に一任。ショーロ・クラブと共演した森昌子“越冬つばめ”では、ポルトガルの民族音楽=ファドの香りを漂わせたりもする。

  「沢田さんのアレンジを通じて、この曲にこういう側面があったんだなって気付かされました。“悲しい酒”もそうですし。演歌、歌謡曲だからといって、日本的な表現だけに囚われないで、ファドもそうですし、ブラジルやジャズとか、自分が経験してきたいろいろな音楽のエッセンスもブレンドできたらというのがアルバムのキーワードのひとつとしてありましたね」。

【参考動画】美空ひばりの66年の楽曲“悲しい酒”

 

 曲中の語りもカヴァーした美空ひばり“悲しい酒”の熱唱は本作のハイライトのひとつだが、J-Pop世代には〈宇多田ヒカルの母〉としても知られる藤圭子の代表曲“圭子の夢は夜ひらく”の情念に満ちた歌声も強烈だ。バックを務めるおおはた雄一のギター・プレイにも鬼気迫るものがある。

  「おおはたさん、凄いでしょう! 沢田さんはおおはたさんと何度も仕事しているんですけど、〈こんな凄いギター弾くなんて!〉ってビックリしてました。でも、これは本当に難しい曲でしたね。改めて原曲を聴いてみて、藤さんは天才だと思うし、それゆえの狂気みたいなものも感じる。そういうものをフェイクしようとするとすぐにバレてしまうので、自分なりにどう歌っていいのか、かなり悩みました」。

 藤圭子や美空ひばりだけではなく、ちあきなおみ研ナオコテレサ・テンなど、個性的な歌い手のカヴァーが並んだ本作。それを全曲一発録り、ほぼワンテイクで録ったという畠山も凄い。ブラスを加えた「キャバレー・ソングみたいな感じのアレンジ」による八代亜紀“おんな港町”では、思わずハンドマイクを握って身体を揺らしながら歌ったらしいが、見事にオリジナルのエッセンスを自分のものにしている。そして、アルバムのラストを飾るのは、彼女のペンによる表題曲“歌で逢いましょう”だ。

  「歌を歌っているときって、いろんな人の顔が、思い出が浮かんでくる。あの世もこの世も超えて、歌のなかでみんなと逢えたらいいなと思ったんです。それでこの歌詞を思いついて、メロディーも自然に浮かんできたんですよね」。

 カヴァーを通じて、歌詞の奥深さ、そして、歌と歌手の人生がどこかで繋がっていることを知り、「改めて原曲の凄味と美しさを感じた」という畠山。子供の頃から好きだった洋楽と同じように、演歌や歌謡曲も聴いて育った彼女にとって、本作はルーツを辿る旅でもあり、彼女が愛した原曲と同じように、ここには歌い手の人生が刻み込まれているのだ。

 

【ライヴ情報】
■LIVE“Fragile” 11月3日(月・祝) キリスト品川教会グローリア・チャペル
■“ふたりのルーツ・ショーvol.4” アン・サリー、畠山美由紀 12月14日(日) 恵比寿The Garden Hall いずれもお問い合わせはホットスタッフ・プロモーション(03-5720-9999、平日12:00〜18:00)へ

 

▼畠山美由紀の近作

左から、2011年作『わが美しき故郷よ』、2013年のカヴァー集『rain falls』(共にランブリング)

 

 

▼畠山美由紀の参加した近作

左から、高野寛のトリビュート盤『高野寛 ソングブック ~tribute to HIROSHI TAKANO~』(OCTAVE)、TICO & icchieの2014年作『青春レゲエ・パート2』(AWDR/LR2)、TOHOKU ROCK'N BANDのタワレコ限定シングル“東北 ROCK'N 音頭”(MORE ACTION, MORE HOPE.)

 

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