颯爽と、多彩に、力強く。アメリカの弦楽四重奏表現の〈現在地〉。

 2020年に、アルバム『Orange』(演奏はアタッカ四重奏団)でグラミー賞最優秀室内楽・小編成アンサンブル・パフォーマンス賞を受賞した、1982年生まれの作曲家/ヴァイオリン奏者/歌手のキャロライン・ショウ。イエールやプリンストンなどの東海岸の名門を出て、ラッパーのカニエ・ウェストやNasあるいはインディーロックのアーケード・ファイアらと、また同時代の演奏家集団、例えばRoomful Of Teeth、So Percussion、ACME、yMusicらと柔軟な感性で新しいクラシック・シーンを形成。最近は世界的人気歌手ロザリアとの仕事や映画会社A24制作の「The Sky Is Everywhere」の作曲と活躍の幅を広げている。

 今年は、アタッカ四重奏団が来日した年になった。確かなテクニックを基に、その生命力溢れる音楽的フローと明るい音色の質感で会場を大いに沸かせたが、同時に、日本の聴衆にキャロライン曲も披露、弦楽器の使い方を得意とするこの作曲家とアタッカの深い関係性を感じさせた。

ATTACCA QUARTET 『Caroline Shaw: Evergreen』 Nonesuch(2022)

 今作『Evergreen』は、颯爽とテクスチャーを使い分けながら、楽器を叩く、グリッサンドする、ハーモニクスで和音を作る、など、特殊奏法の導入がさらに多彩になり、具体的に参照された古典的な音楽的要素とより有機的に繋がり、新しい意味を生みながら、美しく混ざりあっている。

 また、“Three Essays”は小説家マリリン・ロビンソンの音楽化、“Cant voi l’aube”は12世紀フランスの吟遊詩人(トルヴェール)であるガス・ブリュレの詩を用いた、というように文学面からの影響はより顕著だ。すると、歌は欠かせない。〈弦楽四重奏〉だけでなく、〈弦楽四重奏と歌〉の作品も3曲収録され、作詞作曲をする〈歌手〉としての作品にもなっている。古典に向かい、再解釈するのではなく、古典を参照しながら、作曲と演奏を両立させ新しい何かを作っていく。その試みはどれだけ成功するのだろう。これから彼女を中心に生まれるだろう時代を期待感を持って迎えたい。