LAの才人がラッキーミーに移籍して5年ぶりのアルバムを完成。多数の豪華ゲストを迎えつつ深い感情によって描かれた『Continua』は美しい音風景を確かに約束する!
チャンス・ザ・ラッパーやキッド・カディらのプロデュースを手掛け、日本でも真鍋大度とのパフォーマンスで知られるLAのプロデューサー、ノサッジ・シングことジェイソン・チャンが通算5作目『Continua』を完成した。前作『Parallels』(2017年)まで長らく在籍していたイノヴェイティヴ・レジャーから今作ではラッキーミーに移籍。近年はそのラッキーミーに属するクチカやジュリアナ・バーウィック、パク・ヘジンらの楽曲に関与している彼だが、今回はかつてなく多数のゲストにさまざまな役割を委ねつつ、もともとフライング・ロータスのリミックスや〈Beat Dimensions〉への抜擢で名を知られるようになった彼自身の出処を改めて思い起こさせるような内容に仕上げてきた。
ほぼ全曲のプロダクションには、近年ではジョン・バティステの『WE ARE』に参加していたエンジニア/プロデューサーのサニー・レヴィンが助力し、柔和なダウンテンポやフォークトロニカ、初期ダブステップなどのエッセンスを溶かし込んだアトモスフェリックなトラック群を整えている。デュヴァル・ティモシーのピアノ/シンセによるタイトル・トラックを厳かな幕開けに配し、これまでもたびたび組んできたカズ・マキノが歌う“My Soul Or Something”からビートは躍動を始める。“Process”にも声ネタを提供するジュリアナ・バーウィックを迎えたエモーショナルな“Blue Hour”、サーペントウィズフィートの美声と重厚なビートが音風景を一変する“Woodland”、サム・ゲンデルのサックスをバックにコビー・セイが歌いかけるアヴァンな“Grasp” 、トロ・イ・モワを招いたシンセ・ウェイヴの“Condition”など、ほぼ全曲がヴォーカル・トラックで固められているところも今回の大きな特徴に違いない。
5年というブランクの間には家族の健康問題など私生活における変化があったそうだが、母親を通じて知ったという韓国のヒョゴを招いた“We Are”がここにあるのは、ジェイソン自身が今作に埋め込んだエモーションの大きさを象徴するかのようでもある。一方で同曲がマーティンのドラム・サンプル提供を受けて構築されているように、往年のブレインフィーダーとハイパーダブを接合したようなLAビーツ感覚がある種のリスナーに心地良い耳馴染みを約束しているのは言うまでもない。そんな作中においてハイライトとなるのはピンク・シーフがラップする“Look Both Ways”だろうか。ここではスクープ・デヴィルのビート援護もありつつ後半にはD・スタイルズがスクラッチを挿入。D・スタイルズといえばISPやビート・ジャンキーズで名を馳せた重鎮ターンテーブリストだが、ジェイソンにとっては〈Low End Theory〉デビュー時に共演した間柄でもあるそうだ。
そう捉えると『Continua』は、自身の体験やLAシーンの絶え間ない流れを、ノサッジ・シングの音楽を通じて表現した一枚だと見ることもできる。アルバムはサム・ゲンデルが再登場する“Skyline”、奇才アイドレスとの幻惑的なコラボ“Different Life”で幕を下ろすが、そこに響く深い余韻が何か美しいものを見たような感情を残してくれるはずだ。
ノサッジ・シングが参加した近作。
左から、ジュリアナ・バーウィックの2020年作『Healing Is A Miracle』(Ninja Tune)、クチカの2021年作『Wrestling』(LuckyMe)、パク・ヘジンの2021年作『Before I Die』(Ninja Tune/BEAT)
ノサッジ・シングの作品。
左から、2009年作『Drift』(Alpha Pup)、2012年作『Home』、2015年作『Fated』、2018年作『Parallels』(すべてInnovative Leisure)
左から、デュヴァル・ティモシーの2020年作『Help』(Carrying Colour/インパートメント)、カズ・マキノの2019年作『Adult Baby』(Adult Baby)、サーペントウィズフィートの2021年作『Deacon』(Secretly Canadian)、サム・ゲンデルの2022年作『blueblue』(Leaving)、ヒョゴの2018年作『24』(Mirrorball)、トロ・イ・モワの2022年作『Mahal』(Dead Oceans)、パンダ・ベア&ソニック・ブームのニュー・アルバム『Reset』(Domino)、アイドレスの2021年作『Mulholland Drive』(Lex)