往年のドイツの巨匠、アーベントロートの代表的名盤を集めた5枚組で、モノラルながら音質も良好だ。彼が生まれた1883年はブラームスが交響曲第3番を作曲した年でもあるが、この第3番が実に素晴らしい。テンポを細かく動かしながら楽想の移り変わりを徹底的に描き尽くし、同時に音色の深みが絶妙。その名の通り〈夕映え(アーベントロート)〉の美しさだ。チャイコフスキーの“悲愴”での迫真の劇的表現、凄絶な表情も圧巻。一方、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンでは、こうした彫りの深い表情を整った造形の中に封じ込め、ブラームス、チャイコフスキーとの様式の違いも見事に描き出している。