Photo by Koji Uemura

 兵庫県芦屋ルナ・ホールにおける、1月7日のマチネーを見た。700人の収容、1970年竣工のようだがいまだモダンな感覚を与える公立のホールだ。

 まず、綺麗にドレスを着こなす八神純子とジャズ・ピアニストの宮本貴奈がステージに現れる。そして、宮本の素養豊かにして滋味に富むピアノ演奏のもと、八神が悠々と歌声をのせる。その噛み合わせは絶妙にして、まさしく十全。素材となるのはもちろん好ソングライターたる新旧の八神の楽曲群で、“みずいろの雨”をはじめかつてヒット・チャートを賑わせた曲がもう一つの高尚さやアダルトな広がりや陰影を伴って送り出されていく。とともに、こういうシンプルな設定が取られると、八神の伸びやかな歌声の魅力もおおいに再確認させられるだろう。

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 八神純子を万全にもり立てる宮本貴奈は、バークリー音楽大学やジョージア州立大学で学び、米国だけではなく一時は英国で活動していたインターナショナル派である。そんな彼女の近作『Wonderful World』(Jump World, 2020年)はヴォーカル曲も交えつつジャズとポップス的佇まいの清新な交差点を追求した好盤であり、成熟している今の八神の表現助力者として本当にふさわしい。この得難い噛み合わせの妙に触れると、この二人の出会いは必然であったのかと思わせられまいか。

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 5曲目以降はすべて、八神と宮本(彼女は一部コーラスを取った)の単位にさらにヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、そしてフルートという編成のTAKETA室内オーケストラ九州の選抜員が加わる。コロナ禍に大分県で鋭意結成されたというTAKETA室内オーケストラ九州の面々は誠心にことにあたりつつ曲によってはやんちゃにストンプ音も加え曲趣を盛り上げ、もう一つの成熟や刺激を無理なく加える。その巧みなアンサンブルのアレンジは宮本貴奈がやっているようだが、八神を中央に置くステージ上の8人はナチュラルに〈ポップ・ミュージック・ビヨンド〉と形容したくなる音楽の像をきっちりと浮かび上がらせていた。

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 時代を彩ってきた楽曲が優美な色付けや冴えた思慮を伴い、悠然としつつとても雄弁に送り出される。80年代のシティ・ポップが現在再脚光を浴びており、八神純子の表現もその文脈に入れられるだろうが、彼女の楽曲が抱えるエヴァーグリーン性もこの公演は指し示していたのは疑いがない。

 2部においては、コロナ禍に入ってから発表した“TERRA〜here we will stay”や“負けないわ”といった八神の現在の社会/生活観が投影された楽曲も披露される。Jポップ、ジャズ、クラシックといった音楽要素が自在に重なり、そして心地よく融解し接する者を流麗に誘う……。この特別仕立てのコンサートには、そうした意義ある大人のポップ・ミュージックを送り届けたいという意思が横溢していた。

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SETLIST
RENAISSANCE CLASSICS「八神純子Strings Ensemble Premium Concert 2023」 The Women Songwriters Hall of Fame受賞記念
2023年1月7日(土)兵庫・芦屋 ルネサンスクラシックス芦屋ルナ・ホール
開場/​開演:13:00/13:30

【一部】
1. There you are
2. 思い出は美しすぎて
MC
3. 約束
MC
4. 1年と10秒の交換
MC ※アンサンブル登場
5. 一筋の運河
6. Just breathe
MC
7. Mr.ブルー
8. パープルタウン

【二部】
9. アンサンブル演奏 W.A.Mozart Eine Klaine Nachtmusik K.525
10. TERRA~here we will stay
11. 誓い
12. みずいろの雨
13. ポーラースター
MC
14. 明日の風

【アンコール】
15. 負けないわ

 


LIVE INFORMATION
RENAISSANCE CLASSICS
「八神純子Strings Ensemble Premium Concert 2023」
The Women Songwriters Hall of Fame受賞記念 名古屋公演

2023年2月11日(祝・土)愛知・名古屋 愛知県芸術劇場コンサートホール
開場/​開演:13:00/13:30