八神純子

Jポップス&クラシックスの〈豊穣な現在地〉が視えた2時間

 大宮線を北上しながら自然と作詞家(三浦徳子)のヒット曲名を諳んじていた。真夜中のドア/青い珊瑚礁/嵐の素顔/モニカ/夏色のナンシー……口火は勿論「弔い歌として、今日はきっと聴けるはず」と確信を抱いた“みずいろの雨”だった。

 ソニックシティ大ホールの入口でささやかな募金をし、小児がんの子らを支える活動の象徴である金色のSupporterバッジを受け取る。全席自由の4列めを選んで着席し、〈OMIYA SYMPHONIC WAVE 2023〉のパンフを開いたら、本日のプログラムが印字されていた。尾崎裕哉は“Lighter”“I LOVE YOU”、福原彰美は“戦場のメリークリスマス”、八神純子は“Mr.ブルー~私の地球~”“みずいろの雨”、事前予想は4曲が的中した。ポップス&クラシックスによる音楽の祭典にして、ゴールドリボン基金チャリティーコンサートである無料公演の全貌をさらに目で追う。

山下康介 指揮
パシフィックフィルハーモニアポップス東京

 まずは山下康介(音楽監督)の指揮によるパシフィックフィルハーモニアポップス東京の管弦楽で、贅沢な幕開けの5曲が奏でられる構成が判明する。不特定多数の観客層(それも年配層)が想定されうる公演の性格上、こうして事前にセットリストが公開されるのは得策だと思う。司会者(丸岡いずみ)の簡潔なMCや出演陣への質疑応答も功を奏し、とても好感を覚える催しだった。

 映画「風と共に去りぬ」より“タラのテーマ”で始まった前半部のハイライトは、TVドラマ「花より男子」のメインテーマ。そう、山下康介の作曲・編曲によるあの曲だ。休憩後の、間宮芳生・作曲のアニメ映画「火垂るの墓」よりも編曲は山下で、〈RENAISSANCE CLASSICS〉の理念を見事に音で編み出していた。前半のトリを担った尾崎裕哉は「ツアー2公演を中止せざるを得なかった程」の体調不良をおしての会場入り。それでもオケ版 “I LOVE YOU”1曲だけは歌いきり、喝采を背に大事を取って去った。後半2曲目の“Kizuna”と“戦メリ”は米国/欧州で活動するピアニストの福原彰美が、故・坂本龍一へのオマージュを込めて、現代音楽に挑んだ試み。その話題性と師走間近の季節性に富み、音楽人の訃報が相次ぐ年の追悼感を縫うような調べが何とも染みた。

尾崎裕哉

福原彰美

 そして最後に登場したのが今年6月、グロリア・エステファン、ロレッタ・リンらと共に日本の女性シンガーとしては初めて〈女性ソングライターの殿堂(入り)〉に選出された八神純子だ。2021年、女性音楽家の支援目的で米国の音楽団体が創設した〈殿堂賞〉の第2回めで選ばれた八神は、この日のMCで「元々、アジアから一人選ぶ事は決まっていたそうで……一番驚いたのは私自身とレコード会社ですね」と快挙の裏側を明かした。オフィシャル・サイトによれば、彼女自身が「なぜ、私を?」と殿堂のチェアマンに問うと、こう答えたという。「長年にわたり幅広いジャンル、スケールを感じさせる作品を書いて、そしてファイヤーボールのような情熱を持って歌うあなたのステージを見たら、選考委員の誰しもが〈あなたしかいない!」って、思ったのよ」、いかにも米国人らしい賛辞だが思わず膝を叩いた。3歳で鍵盤に触れ、16歳でオリジナルを書き、ポプコン出場から高3時のチリ音楽祭ではオケをバックに着物姿で歌って6位入賞を…“みずいろの雨”でブレイク後も、恋愛歌に留まらぬスケール感を有する力作の数々を、稀有な澄んだ歌唱力で紡ぎ続けている八神。結婚・出産後も日米両国で活動し、一時休止するも「9.11で閉まったドアが、3.11で開いた」と急遽帰国して以降は積極的に東北の被災地へ。炊き出しとライヴを合わせて各地を回る“八神純子の現在地”と、冒険を恐れないソングライター人生を“ファイヤーボールのような情熱”と評したのは至極至言。1996年時点で山川啓介の詩(Mr.ブルー)を授かって♪“争い”という文字が/辞書から消え去る/その日まで……と歌い、この日も「恩師」三浦徳子や、「音楽仲間である」谷村新司やKANらの遺志を偲んで「音楽家のできる事」の「新たな決意」を語った八神純子。そんな彼女の凄さが如実に伝わるステージだった。ホールを出て、上りゲートを潜ったのが18:16、ラジオ日本の「タブレット純 音楽の黄金時代」を点けたら、偶然にも“みずいろの雨”の前奏が流れた。あの情熱ホイッスルを聴きながら、夜の高速で家路についた。

丸岡いずみ

 


LIVE INFORMATION
RENAISSANCE CLASSICS
『OMIYA SYMPHONIC WAVE 2023』ゴールドリボン・チャリティーコンサート

2023年11月25日(土)埼玉・大宮ソニックシティ大ホール *終了
開場/開演:15:00/16:00(18:00終演予定)
指揮:山下康介
管弦楽:パシフィックフィルハーモニアポップス東京
出演:八神純子、尾崎裕哉、福原彰美(ピアノ)
演奏曲:“Mr.ブルー~私の地球~”“明日の風”“みずいろの雨“(ヴォーカル:八神純子)、“I LOVE YOU”(ヴォーカル:尾崎裕哉)、“戦場のメリークリスマス”“Kizuna”/坂本龍一(ピアノ:福原彰美)、“火垂るの墓”(映画「火垂るの墓」より)/間宮芳生、編曲:山下康介、“天国と地獄”序曲、“白い恋人たち”/フランシス・レイ、編曲:久石譲
司会:丸岡いずみ
※チャリティー基金の〈全額〉をゴールドリボンに寄付。