右:イヴ・レヒシュタイナー ©Thomas Guillin
パイプオルガンとジャズピアノ、異色の競演
「音楽の固定観念を楽しく解き放つ」
スイス出身の世界的パイプオルガン奏者イヴ・レヒシュタイナーと、米国に18年間住み現在は日本を拠点に活動するピアニスト宮本貴奈が、2026年2月21日、ミューザ川崎シンフォニーホールのリサイタルに出演する。多彩な音色で古楽からプログレッシブロックまで演奏する「オルガンの魔術師」との共演について、宮本は「音楽の固定観念を楽しく解き放ちたい」と語る。
このリサイタルは前半がレヒシュタイナーのソロで、曲目がバッハ“前奏曲とフーガ ト長調BWV541”“ソナタ第4番ホ短調”、デュリュフレ“組曲 op. 5”。宮本が共演する後半になると全く様相が変わり、パット・メセニー“ミヌアーノ”、ムソルグスキー“展覧会の絵”、ガーシュウィン“ラプソディ・イン・ブルー”となる。「神聖」「荘厳」とされるパイプオルガンのリサイタルで、これだけ曲が〈縦横無尽〉なことはまずない。
「イヴさんと何をやろうかと連絡を取り合ったとき、最終的に残ったのがこの3曲です。パット・メセニーは彼のリクエストですが私も大好きな曲で、展覧会の絵はエマーソン・レイク&パーマーによるプログレバージョンもあります。イヴさんがどのように弾くのか楽しみです」
“ラプソディ・イン・ブルー”はジャズとクラシックを越境しようとするピアニストにとっては定番中の定番。だが、パイプオルガンとジャズピアノでの演奏となると、正直予想がつかない。
「この曲は私も最近よく演奏する作品です。イヴさんは初めて演奏するようで、私がピアノパート、彼がオケパートを演奏すると思います。ただ、どういう演奏になるのかは全く分かりません。音を実際に合わせてからが勝負です。即興的な要素はある程度入れるつもりです」
今回、なぜこのような異色の組み合わせが実現したのだろうか。
「私がミューザ川崎のホールアドバイザーになったのが2023年です。その年にイヴさんの公演をミューザで聴いてたまげました。私はエレクトーン出身なので前からオルガンに興味があったのですが、特に彼の音色の使い方が素晴らしかったです」
宮本は名門バークリー音楽大学でジャズを学ぶなどアメリカに18年間住み、現地ではジャズオルガンの名手であるジミー・スミスのように、ポータブルオルガンを使ってベースラインを弾くこともあった。それだけに、レヒシュタイナーのすごさを即座に理解した。
「コンサート終演後にお会いしたらすぐに盛り上がり、イヴさんを質問攻めにしてしまいました。パイプオルガンといえば一般的にバッハ、宗教音楽のイメージですが、彼のコンサートは全然違う。ハーモニーの使い方もとても面白く、衝撃を受けました。その時、一緒に演奏すれば面白いのではないかとビビっときました」
レヒシュタイナー本人は古楽の大家であり、気難しそうな性格かと思いきやまるで違うという。
「とてもオープンマインドな人で、ワクワクする心、いたずら心、遊び心を持った人です。マッドサイエンティスト的なところもあり、寝食を忘れて音色を調合していそうな感じです。聞くとコンサートの前には、パイプオルガンの音色のプリセット(組み合わせ)は数百以上作るそうです」
音楽面で全く違う歩みを進めてきた2人だが、実は共通点がある。それは「音楽の越境」である。レヒシュタイナーは古楽の名手でありながらプログレなど他ジャンルの音楽も演奏する。宮本もジャズの「根っこ」である即興を最大限に生かしながら、ポピュラーや民族音楽、クラシックなど様々な音楽ジャンルを自由に行き来する。
「私はLUNA SEAのSUGIZOさん、八神純子さんとの共演などジャンルを越えた企画をやってきました。イヴさんとも越境の試みができればいいなと思っていたところ、本当に実現しました。ピアノとパイプオルガンは同じ鍵盤楽器ながら、対照的な楽器だと感じます。ピアノの音色は一つで音が減衰しますが、オルガンは音が減衰せず、音色は無限大にある。どんな演奏になるのか、今からワクワクしています」
イヴ・レヒシュタイナー(Yves Rechsteiner)
オルガン奏者。ジュネーブ国際コンクール、プラハ国際コンクール、ブルージュ国際コンクールなど数々のコンクールで入賞。1995年よりリヨン高等音楽院で通奏低音を教えるようになったのみならず、古楽部門のトップも務める。2014年、打楽器奏者のアンリ=シャルル・カジェおよびギタリストのフレッド・モーリンとRock The Organ(ロック・ザ・オルガン)を結成。フランク・ザッパなどプログレッシブロックジャンルの演奏でワールドツアーを行う。同じ年に、トゥールーズ・オルガン音楽祭の芸術監督に就任し、あらゆるジャンルの音楽に門戸を開いている。また2022年にトニー・デキャップが完成させた、持ち運び可能でパイプごとに空気圧を変えられるオルガン〈Explorateur〉の開発に携わっている。
宮本貴奈(Takana Miyamoto)
ピアニスト・作編曲家。茨城県結城市出身。多彩なスタイルで、ジャズ・ポップスからオーケストラ、弾き語り・コーラスワーク、音楽監督・プロデュースまで幅広く活動。米英で20年活動(ボストン、NY、アトランタ、ロンドン)、約30カ国で演奏。グラミー賞ノミネート作品参加他、〈ジョージア州で最も影響力のある女性〉等受賞多数。賞多数。2013年帰国。八神純子、佐藤竹善、サラ・オレイン、May J.、小野リサ、絢香、タケカワユキヒデ、中西圭三、稲垣潤一等と共演、コラボ企画も展開。2020年、『Wonderful World』発表、ミュージックペンクラブ最優秀作品賞受賞。2024年、城田優との共作曲“夢の種~I’ll Be By Your Side”発表。ミューザ川崎シンフォニーホールアドバイザー。
LIVE INFORMATION
イヴ・レヒシュタイナー
パイプオルガン・リサイタル feat. 宮本貴奈
2026年2月21日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール
開場/開演:15:15/16:00
■出演
パイプオルガン:イヴ・レヒシュタイナー
ピアノ:宮本貴奈
■曲⽬
〈第1部:レヒシュタイナー・ソロ〉
J. S. バッハ:前奏曲 ト長調 BWV541
J. S. バッハ:ソナタ 第4番 ホ短調 BWV528
J. S. バッハ:フーガ ト長調 BWV541
デュリュフレ:組曲 op. 5
〈第2部:feat. 宮本貴奈〉
パット・メセニー:ミヌアーノ(feat. 宮本貴奈)
ムソルグスキー:展覧会の絵(feat. 宮本貴奈)
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー(feat. 宮本貴奈)
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/events/calendar/detail.php?id=4256