Page 2 / 2 1ページ目から読む

ボブ・ディラン&ザ・バンドのようなサウンドの妙

魅力はそれだけに留まらない。フォークロックグループ〈猫〉への提供曲だった“戻ってきた恋人”ではゴキゲンなセカンドラインリズムをフィーチャーするなど、随所で楽しめるサウンドプロダクションの妙味も作品全体に奥行きを生み出している。

なかでも後藤次利のベースがブイブイとうなりをあげる“僕の唄はサヨナラだけ”から、アーシーでファンキーなR&Bサウンドを聴かせる“贈り物”へと流れるエンディングの高揚感が素晴らしい。ボブ・ディランがザ・バンドと作り上げたアルバム『Planet Waves』に通じるような刺激と成熟が共存したロックアンサンブルが繰り広げられているのだ。

 

アナログに近いまろやかさと鮮度のSACDの音

といった内容の『今はまだ人生を語らず』がこのたびオリジナルの形で復刻され、多方面から熱烈な歓迎を受けている。アナログ7インチジャケットサイズの紙ジャケット仕様で、SA-CD Hybrid盤。気になるその音質だが、SACD層ではその特性がみごと活き、オリジナルであるアナログディスクの聴感にかぎりなく近い、まろやかでふくよかなサウンドを再現してくれる。

マスタリングエンジニアを務めたのは、名匠バーニー・グランドマンだ。彼の手によって音が磨き上げられたと感じる箇所を挙げると、アルバム終盤に登場するグルーヴィーなナンバーではバンドアンサンブルがより粘り気を増した印象を抱く。それから、森進一に提供した“襟裳岬”のセルフカバーバージョンやかまやつひろしとデュエットしたカントリーワルツ“シンシア”などカントリーテイストの牧歌的なフォーキーチューン。中音域の膨らみ具合がとてもいい感じで。心地よい柔らかさを湛えている。

でも映し出される景色は、いつものまんま。したたか酔った拓郎氏が揺られながら暗い路地を歩いているのがハッキリと見える。つまりあの夜の香りを運んできてくれるということ。その香りの鮮度が数段アップした感じだと言えばよいだろうか。

50年近く深い付き合いを続けているリスナーにとっても、つい先日出会ったばかりの若いリスナーにとっても、長く付き合いになるであろう新装版だと思う。

タワーレコードのYouTube動画〈【SA-CD普及委員会】#03 SA-CDとCD聴き比べ~朝比奈隆のベートーヴェン〉

 


RELEASE INFORMATION

吉田拓郎 『今はまだ人生を語らず(完全生産限定盤)』 Sony Music Direct(2022)

■完全生産限定盤
リリース日:2022年12月21日
品番:MHCL-10158
価格:4,400円(税込)

●アナログシングルジャケットサイズ(180mm角)のスペシャル紙ジャケット仕様(見開きダブルジャケット)。
●TAMJIN(田村仁)氏秘蔵のアザーカットを多数掲載した歌詞ブック。
●世界的名匠バーニー・グランドマンによる最新リマスタリング。
●高音質を追求したSA-CD Hybrid盤。 ※SA-CD(スーパーオーディオCD)と通常CDとが2層構造となったディスク

■通常盤(標準ジュエルケース仕様)
リリース日:2022年12月21日
品番:MHCL-30772
価格:2,420円(税込)

●TAMJIN(田村仁)氏秘蔵のアザーカットを2カット追加掲載。
●世界的名匠バーニー・グランドマンによる最新リマスタリング。
●高品質Blu-spec CD2仕様。

TRACKLIST
1. ペニーレインでバーボン
2. 人生を語らず
3. 世捨人唄
4. おはよう
5. シンシア
6. 三軒目の店ごと
7. 襟裳岬
8. 知識
9. 暮らし
10. 戻ってきた恋人
11. 僕の唄はサヨナラだけ
12. 贈り物