音楽の聴き方が多様化した今、タワーレコードがおすすめしているのが高音質なSACDでのリスニング。この連載〈SACDで聴く名盤〉では、そのSACDの魅力や楽しみ方をお伝えしています。今回取り上げるのは、ビクターとタワレコの小澤征爾さん追悼企画として『黒人霊歌集/ミュージカル・ハイライト』と同時に初SACD化された『オーケストラル・スペース 1966 & 1968』。本作を著書「ジャズの秘境」などで知られる書き手の嶋護さんが紹介してくれました。 *Mikiki編集部

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小澤征爾, 若杉弘, 読売日本交響楽団, 秋山和慶, 日本フィルハーモニー交響楽団 『オーケストラル・スペース 1966 & 1968(2024年マスタリング)』 VICTOR X TOWER RECORDS(2024)

 

1960年代、熱気の時代に頂点に差し掛かった前衛音楽

1960年代は熱気の時代だった。経済や技術の急速な成長に、人々は明るい未来を熱く確信していた。そして、科学や社会が進歩するように、音楽も進化するものだと信じた。こうして、新しい価値観に基づいた前衛音楽が世界中で創られた。しかし、1968年から世界的な規模で民主化運動や反戦運動が広がり、進歩史観は楽天的に過ぎるのではという疑念が頭をもたげ始めた。

日本では、前衛音楽シーンの高揚感は、大阪で万国博覧会が開かれた1970年まで持ち堪えたが、1973年のオイルショック以降はっきりと収束に転じた。時代的気分の変化が主な原因だが、現代音楽の演奏会の運営には古典作品よりも大きな手間やコストがかかり、大きな収益も期待し難いことも追い討ちをかけた。

1966年と1968年、武満徹と一柳慧は東京で現代音楽祭〈オーケストラル・スペース〉を企画開催した。指揮者は小澤征爾、若杉弘、秋山和慶。室内楽曲や器楽曲も俎上に載せられ、海外作曲家の作品も取り上げられた。

日本ビクターは、この演奏会をライブ録音し、そこから1966年に2枚、1968年に1枚、計3枚のアルバムをリリースした。今回のリイシューは、このLP 3枚を2枚のSACDハイブリッドに収めたものである。

1966年と1968年という日付には重要な意味がある。20世紀初頭に端を発した現代音楽の潮流は、この時一大潮流になっていた。〈オーケストラル・スペース〉の録音は図らずも、頂点に差し掛かっていた時代の熱量を生なましく記録したドキュメントになったのである。

 

〈オーケストラル・スペース〉が良音質である2つの理由

ところで、この時代の日本のオーケストラ録音は共通する弱点を抱えていた。日本でホールといえば多目的ホールばかりで、オーケストラ専用のホールはひとつもなかった。これは録音制作にとっては、足腰を鍛えていないスポーツ選手が試合に出るようなものだ。

だが、幸いにも〈オーケストラル・スペース〉の録音は上々のサウンドだった。その理由を2つほど推測してみよう。

ひとつは、収録された作品の性質だ。ベートーヴェンやブルックナーのオーケストラ作品は、重厚なレゾナンスを有するコンサートホールで演奏されることを暗黙のうちに想定している。一方、ここに収められた20世紀中期の作品は、少なくともブルックナーのようにはトラディショナルな厚い響きのコンサートホールを前提としているとは言えず、〈不利〉もそれほど気にならない。

もうひとつは、これがライブ録音であることだ。通常、ライブ録音には様々な制約や障害がつきまとう。しかし、ここではライブ録音特有のアンビエンスや演奏中の様々なノイズが、むしろリアリティの向上に一役を買っている。とかくデッドになりがちだったこの時代の国内録音に比べ、明らかな活気が付け加えられている。

 

『オーケストラル・スペース 1966 Volume II』『同 1968』のアートワーク

このSACDはあの熱気の時代へと誘うタイムマシン

この夏SACDとして再登場した〈オーケストラル・スペース〉では、丁寧なマスタリングが時代の熱気を、まず聴衆のざわめきを通してリスニングルームに再現する。そして、それ以上に、奏者の弓の圧力や息の吹き込みの強度と繊細さを克明に描き出し、この時代ならではの演奏家の熱い意気込みをスリリングに伝えてくれる。

リゲティの異様な迫力、クセナキスの切れ味鋭い裂帛のインテンシティ、武満の雄渾な細密描写。これらは同じ曲の昨今の演奏からは聴かれなくなった要素だ。若き日の高橋悠治が叩き出す圧倒的なピアノのタッチにも思わず頬が緩む。

ありふれた表現で申せば、このSACDは音を通してリスナーをあの熱気の時代へと誘うタイムマシンと呼べる。坂本龍一がこの時代を語った下記のインタビューとともに楽しむのも一興だろう。

 


RELEASE INFORMATION
タワーレコード・オリジナル企画盤
VICTOR x TOWER RECORDS
<小澤征爾 追悼企画>世界初SACD化
貴重なビクターへのステレオ録音を2種に集成

仕様:SACDハイブリッド/スリムケースとジュエルケース仕様/盤面緑色仕様/オリジナルジャケットデザイン採用(一部)/各新規序文解説とLP初出時の筆者による解説も一部復刻/英文歌詞付(2)
永久保存盤/最新復刻
音源:ビクターエンタテインメント
マスタリング・エンジニア:山崎和重氏(FLAIR MASTERING WORKS)

■今回の音源の工程に関して
・SACD層:新規でオリジナルアナログマスターテープから、ダイレクトにDSD化(2.8MHz)
・CD層:同様にDSDでデジタル化後、出来るだけ工程ロスを減らしたピュアな方法で44.1kHzに変換してマスターを作成
・上記一連の工程は、ビクタースタジオの山崎和重氏ルームで2024年に実施

 

小澤征爾, 若杉弘, 読売日本交響楽団, 秋山和慶, 日本フィルハーモニー交響楽団 『オーケストラル・スペース 1966 & 1968(2024年マスタリング)』 VICTOR X TOWER RECORDS(2024)

リリース日:2024年8月16日(金)
品番:NCS88031/2
価格:5,830円(税込)
2SACDハイブリッド

TRACKLIST
DISC 1
「オーケストラル・スペース 1966 Volume I」
1. 武満徹:ピアノと管弦楽のための「弧」第1部(1963-66)
2. 高橋悠治:ピアノのための「クロマモルフ II」(1964)
3. 一柳慧:オーケストラと多種の変調器、磁気テープのための「ライフ・ミュージック」(1964-66)
4. 湯浅譲二:2つのフルートのための「相即相入」(1963)
「オーケストラル・スペース 1966 Volume II」
5. リゲティ:アトモスフェール(1961)
6. クセナキス:ストラテジー(1962)

DISC 2
7. ケージ:18回目の春を迎えたすばらしい寡婦(1942)
8. レイノルズ:アンバージュ(1964)
9. 安達元彦:合奏協奏曲(1965)(時間の都合で第3楽章は割愛)

「オーケストラル・スペース 1968」
10. 武満徹:クロストーク(2つのバンドネオンとテープ音楽のための)(1968)
11. 高橋悠治:6つの要素(4つのヴァイオリンのための)(1965)
12. ライヒ:ピアノ・フェーズ(2台のピアノのための)(1967)
13. ケージ:プリペアードピアノと室内オーケストラのためのコンチェルト(1951)

■演奏者
小澤征爾[指揮]/読売日本交響楽団(1, 5)、高橋悠治[ピアノ](2)、小澤征爾[指揮]/若杉弘[指揮]/読売日本交響楽団(3, 6)、吉田雅夫[フルート]/野口龍*[フルート](4)、増田睦美[ソプラノ]/若杉弘[ピアノ](7)、野口龍*[フルート](8)、若杉弘[指揮]/読売日本交響楽団(9)、池田光夫、前田照光[バンドネオン](10)、植木三郎、板橋健、真峰紀一郎、渡辺恭孝[ヴァイオリン](11)、一柳慧、土屋幸雄[ピアノ](12)、一柳慧[ピアノ]/秋山和慶[指揮]/日本フィルハーモニー交響楽団(13) *注=当時の表記は〈竜〉

■録音
1966年5月1, 2, 4日 日生劇場(ライブ)(1-9)、1968年6月5日 日経ホール(ライブ)(10-12)、1968年6月7日 日比谷公会堂(ライブ)(13)

■マスタリング・エンジニア
山崎和重(FLAIR Mastering Works)

■原盤
ビクターエンタテインメント

※タワーレコード限定販売。限定盤
※SACDハイブリッド盤
※世界初SACD化
※スリムケース仕様
※2024年最新マスタリング音源使用(マスタリング・エンジニア:山崎和重氏)
※盤印刷面:緑色仕様
※オリジナルジャケットデザイン使用(他ジャケットを解説書他に一部掲載)
※オリジナルマスターから起因するノイズ等がございますが、ご了承ください
※解説書:板倉重雄(新規序文解説)、秋山邦晴氏による初出時解説を再録、解説書合計41ページ

 

小澤征爾, 東京混声合唱団 『黒人霊歌集/ミュージカル・ハイライト(2024年マスタリング)』 VICTOR X TOWER RECORDS(2024)

リリース日:2024年8月16日(金)
品番:NCS88033
価格:2,970円(税込)
1SACDハイブリッド

【収録曲】
「黒人霊歌集 Negro Spirituals」
1. だれも知らない私の悩み
2. 海を渡れ
3. ドライ・ボーンズ
4. ゆれるよ幌馬車
5. 少年ダビデよ竪琴ならせ
6. 主はダニエルを救い給う
7. イエスのもとにのがれよう
8. 人皆祈りぬ
9. 時には母のない子のように
10. ゆけ、モーゼ

「ミュージカル・ハイライト Musical Highlight」
11. おお美しき朝~「オクラホマ!」より
12. サマータイム~「ポーギーとベス」より
13. セプテンバー・ソング~「ニッカボッカ・ホリデイ」より
14. 君はわがすべて~「ベリー・ウォーム・フォー・メイ」より
15. バリ・ハイ~「南太平洋」より
16. トゥナイト~「ウエスト・サイド物語」より
17. 人生はひとりじゃない~「回転木馬」より

■演奏者
東京混声合唱団
ビクター・アンサンブル(1-10)、原信夫とシャープ&フラッツ(11-17)
小澤征爾[指揮]

■録音
1961年9月8日 ビクター第1スタジオ(1-10)、1961年 文京公会堂 ライブ録音 (11-17)

■マスタリングエンジニア
山崎和重(FLAIR Mastering Works)

■原盤
ビクターエンタテインメント

※タワーレコード限定販売。限定盤。歌詞(英文)付
※SACDハイブリッド盤
※世界初SACD化
※ジュエルケース仕様
※2024年最新マスタリング音源使用(マスタリング・エンジニア:山崎和重氏)
※盤印刷面:緑色仕様
※オリジナルマスターから起因するノイズ等がございますが、ご了承ください。
※解説書:板倉重雄(新規序文解説)、木村重雄氏、永六輔氏による初出時解説を再録、解説書合計21ページ