クロマチックハーモニカの魅力を存分に込めた意欲作
屋久島へと向かう船の上で閃いたというメロディをもとに作りあげた軽やかなオリジナルナンバー“Good Things”。クロマチックハーモニカ奏者・山下伶が初めてプロデュースも手掛けた本作の冒頭を飾るこの曲からは、これから始まる「何かいいこと」への期待や、新たな一歩を踏み出した清々しさが伝わってくる。
「これまで6枚のアルバムを制作し、さまざまなスタイルのコンサートを積み重ねてきたことで、ようやく自分の進むべき方向性が見えてきたような気がします。ギタリストのYUTAKAさんをはじめ、豊かな音楽性を持つ仲間たちに巡り合えたことも、本作を作る大きな原動力になりました」
全幅の信頼を寄せるメンバーに声をかけ、彼らと一緒にやりたい曲をリストアップし、その構成を決めて……等々、アルバム制作のほぼ全てに関わったのは大きな挑戦であり、密度の濃い時間の連続だったという。
そうして出来上がったアルバムは、これまでの演奏活動の中で大切にしてきたナンバーから自身初の試みとなる曲までが揃い、「どんな音楽をやってもその色に染まることができる」と山下が言うクロマチックハーモニカの魅力が存分に詰まった力作となった。
ヴァイオリンのソンイルと寄り添い合いながら歌い上げる“サウンド・オブ・ミュージック”、アコーディオン奏者の吉岡“Ree”りさとデュエットした“パリの空の下”と“鮫”では、似た構造を持つ楽器同士でそれぞれの特色を生かしながらもスリリングな音の会話が繰り広げられる。
そして、彼女が初めて挑戦したクラシック曲が“月の光”だ。ピアニスト森丘ヒロキとともに、ジャジーな展開も挟み込みながら丁寧に音を紡ぎ、新境地を開拓している。また、切々と歌い上げる“竹田の子守唄”は、まるで息遣いまで聴こえてくるような、温かみのある音色が心に染み入る。聞くと、この音作りはレコーディングでも意識したのだという。
「ハーモニカというと高音が意識されがちなのですが、私は太くて温かい音もハーモニカの魅力だと思っていますので、今回は敢えてそこを強調しました」
3月にはアルバム発売を記念したコンサートも予定されている。コンサート後には自らが主宰するハーモニカ教室の門を叩く人も増えるそうだ。ファンはもちろん、クロマチックハーモニカに興味のある方、また何か楽器を始めてみたいと思っている方も注目だ。