[特集]Throwback Soul(前編)
R&Bの入手困難盤が大挙リイシュー! ニュー・ジャック・スウィング時代に残された作品の数々をスロウバック目線だけじゃない角度から語ってみました!
ソウル/ファンク/R&Bシーンにおける定番・裏名盤・入手困難盤を復刻してきた〈Throwback Soul〉シリーズがいよいよ80年代末~90年代へ突入! 今回のラインナップは〈ニュー・ジャック・スウィング/ヒップホップ・ソウル・エラ:ネオ・ソウル前夜編〉という括りで、88~95年リリースの40タイトルが2か月に分けて登場します。今回はその時代からリアルタイムでR&Bに親しみ、同シリーズで一部の解説も執筆する音楽ライターの林剛さんに注目ポイントを語ってもらいました。
現代にも受け継がれる当時のR&B
出嶌「この頃のアルバムって、いまでも聴き返すことはありますか?」
林「そうですね、やっぱりカヴァーとかサンプリングで頻繁に使われたりするもの、今回のリイシューでいうと、アフター7の“Ready Or Not”をジャズミン・サリヴァンが“Let It Burn”で使っていたり、トニー・トニー・トニー“It Never Rains (In Southern California)”はデヴィン・モリソンがカヴァーしていたり、そういう時に聴き直すことが多いです。ソウル・フォー・リアルの“Candy Rain”もよくカヴァーされてますね。あと、昨年ビヨンセがロビンSの曲を使ってたじゃないですか。その時に同じ時代だなと思ってシーシー・ペニストンも聴き直したりとか」
出嶌「逆に、今回出るキッパー・ジョーンズがアイズレー・ブラザーズ“Footsteps In The Dark”をカヴァーしていたり、過去のものをリサイクルしていく現象は昔から変わっていない印象ですか」
林「まあ、アイズレーに関してはこの時代から定番だったんだなって今回のラインナップだけでもわかりましたね。キッパー以外に、リフは“Voyage To Atlantis”をカヴァーしていますし」
出嶌「ラジャ・ネーの“Turn It Up”もそうですね。ノーティ・バイ・ネイチャーやボーン・サグズン・ハーモニーと同ネタで」
林「そう、その“Make Me Say It Again, Girl”って本当にサンプリングのネタとしても定番だけど、まさにアイズレー自身が昨年の最新作でビヨンセと一緒にやってたじゃないですか。で、リフの“Voyage To Atlantis”が入っているアルバムにスウィッチ“There’ll Never Be”のカヴァーもあるんですけど、アイズレーも最新作で“There’ll Never Be”をカヴァーしてるんですよね。そこでリンクするのがおもしろいなって。この前Mikikiでヴィドにインタヴューしたんですけど、新作でプリンスとアーニー・アイズレーのギターを絡めたような曲をやってて、そういえばOGパーカーとの曲でも“Between The Sheets”をサンプリングしてたので訊いてみたら、〈アイズレーは基本だから〉って言ってました。まあアイズレーはちょっと特別ではあるけれど、20~30年ぐらい前の曲を引用するっていうのは絶えずある流れですよね」
出嶌「ただ、ネタの繋がりから辿るにしろ、普通に聴かれるにしろ、残るものと残らないものの差が極端になっている印象です」
林「けっこうキッパリ分かれるんじゃないかな。今回のラインナップだと、アフター7とかミント・コンディション、モンテル・ジョーダンやジャネイは普通に定番っていう感じですね。そうやって聴き続けられているものと、一方ではこういうリイシューでもない限りは知られる機会のないものがあって。EVEとかスアーヴェの作品なんかはなかなか振り返るきっかけがないですよね」
出嶌「過去は単純化されていきますからね。とはいえ、今回の40枚はいわゆるヒット作も不発だったものも混在しています」
林「ヒット規模とかじゃなく内容で評価されて選ばれてると思うから、いいラインナップですね。この40タイトルでいろんな括りができますよね」
出嶌「レーベルの括りでいうと、3月に出るものではモータウンやアップタウン発の作品が目立ちます」
林「この頃のモータウンは、MCAのアーバン部門にいたジェリル・バズビーが新社長になって、彼がモータウンに移る時にトゥデイとかをMCAから連れてきたんですよ。後のキダー・マッセンバーグの時代もそうでしたけど、自分の力で黄金期のモータウンを蘇らせてやろうっていう意欲が出ていた頃だと思います。それで言うと、ボーイズはニュー・ジャック版のジャクソン5、グッド・ガールズはシュープリームス、トゥデイはフォー・トップスっていう感じで、新世代のスターを生み出そうっていう気概が感じられた時代の作品が並んでいますね。アナザー・バッド・クリエイション(ABC)はモータウン版ベル・ビヴ・デヴォーという感じでもあって」