R&Bはオーセンティックなものとプログレッシブなものが共存しながら進化を遂げてきた。ひとりのアーティストの中でも伝統と革新が分かち難く結びついている。どちらかに偏っていても成立しない音楽(ジャンル)だ。アンビエンスを湛えたベッドルームポップ的なサウンドがR&Bと称されたりもする近年は、歌ぢからで聴かせるタイプのR&Bが〈伝統的〉として旧世代のそれと語られてしまうことも間々あるが、メインストリームのR&Bを牽引してきたクリス・ブラウンのようなシンガーが活躍する世界があることも忘れたくない。

そんなクリスに続く新世代のR&Bシンガーとして目覚ましい活躍ぶりを見せるのがヴィドだ。ミシガン州ベントンハーバー出身で、アトランタを活動拠点にしてから久しい。TVオーディション番組「THE VOICE」(2013年)への出演をきっかけにアッシャーに見初められ、アッシャーを兄貴のように慕いながら活動してきた。アルバム制作にも精力的に取り組み、自身の生年をタイトルに冠した『93』(2015年)を筆頭に、OGパーカーとの連名作も含めてコンスタントにリリースしている。ソングライターとしても、本名のウィルバート・マッコイ3世名義で様々なアーティストに楽曲を提供してきた。

そして今年1月、ソロ名義でのフルアルバムとしては6作目となる『Mood Swings』を自身のレーベル〈New WAV Music Group〉(配給はエンパイア)から発表。今回の新作について、これまでのキャリアを軽く振り返りながら、〈R&B is dead〉論争に対する私見も含めて、Zoom越しに語ってくれた。これがヴィドにとって日本初インタビューとなる。

VEDO 『Mood Swings』 New WAV Music Group/Island Prolific/Empire(2023)

 

アッシャーはビッグブラザー

――シンガーとしてのキャリアは10年以上ありますが、「THE VOICE」出演時にアッシャーとの縁ができて、一緒に曲を書いたり、先日はアッシャーの〈Tiny Desk Concert〉でエリック・ベリンジャーとともにバックコーラスをやっていました。アッシャーがあなたにとってどういう存在であるか、また、彼からどんなことを学んだか教えてください。

「アッシャーはビッグブラザーという感じで、音楽的にも人生全般においてもメンターみたいな存在だ。一緒に曲を書いてきて学んだことは多いけど、例えば、いかに自分のことを信じるか、どうやったら緊張しなくて済むか……そのためには、もっと鍛錬しなければならないといったことだね。

あと、音楽に集中するためには余計な雑音は聞かないようにするとか、メディア対策みたいなことも含めて。スキャンダルに巻き込まれてキャリアがダメになってしまう例もあるので、音楽と自分の家族を大事にしてクリーンにやっていった方がいいよとか、そういったアドバイスを常にしてくれる人なんだ」

アッシャーの2022年の〈​Tiny Desk Concert〉でのライブ動画

――ちなみに今あなたが着ているTシャツの絵柄はジミ・ヘンドリックスでしょうか? ジミヘン好きなんですか?

「ああ、ジミ・ヘンドリックスは大好きだよ!」

――やっぱりそうだったんですね(笑)。あなたの活動拠点のアトランタは、90年代からアッシャーたちの活躍でR&B(やヒップホップ)の一大拠点となりました。そして現在、あなたはアトランタを代表するR&Bシンガーのひとりで、2021年のアルバム『1320』ではロイドやジャクイースを招いたり、昨年はOGパーカーとの連名作『While You Wait』を出すなど、アトランタ(ジョージア)勢とのコラボレーションも目立ちます。アトランタのどんな部分がスペシャルだと感じていますか?

「アトランタは、他の土地に行かなくて済むくらい、いろんなカルチャーがミックスしている、メッカと呼べるような場所。アトランタに住んでいる人はもちろん、この土地の文化を体験したくて、わざわざやって来る人もいる。自分にとってはいろいろな機会を与えてくれた所で、R&Bやヒップホップの土壌が既にあるので、遠慮しないで自分の音楽を表現することができた。

そうやって羽根を広げて好きなことをやっていくうちにキッカケを掴んで、タレントショーへの出演とかデビュー前のショーケースに繋がっていったんだ」

――「THE VOICE」出演時からマイケル・ジャクソンやブルーノ・マーズなどのカバーを披露して、SNSではエラ・メイの“Boo’d Up”やネリー feat. ケリー・ローランドの“Dilemma”、サマー・ウォーカーの“Girls Need Love”などをリメイクした動画も話題になりました。これらが“You Got It”(2020年)のヒットに繋がった印象を受けていたのですが、どうでしょう?

「確かにSNSにアップした動画のせいもあると思う。多くの人に愛されている曲をカバーして、それが皆に気に入ってもらえると今度は自分のオリジナル曲を聴いてもらえるようになる。カバーを歌うシンガーからオリジナル曲を歌うシンガーへとスムーズに移行できたんだ。

YouTubeには本当に感謝していて、今は自分のチャンネルの登録者数も100万人に到達した。総再生数が億単位になっていて、ファンベースがアメリカだけじゃなくて世界中に広がっていることを実感しているよ」

“Boo’d Up”“Girls Need Love”のカバー動画

2020年作『For You』収録曲“You Got It”