時代を越えてニュー・タイトルが続々と登場してくるソウルの世界。どこまでも現実が地獄であろうと音の中は天国!?ってことで、今回は2024年の収穫を総決算しておきましょう。多彩なリイシューや発掘などでひしめく宝の山から、いまこそ聴いておきたい珠玉のアルバムとは!?
恒例のソウル復刻&発掘の個人ベスト、2024年版です。レギュラーな連載回が休みがちな年で、とんでもない大発掘などは少なかった気もしますが、それでもルーサーのような話題作は記憶に残っているところでしょう。一方ではメイズのフランキー・ビヴァリー、クインシー・ジョーンズ、リチャード・ペリーといった巨星の訃報が届き、シシー・ヒューストン、アンジェラ・ボフィル、ペギー・ブルー、 ママ・デバージ、シュガー・パイ・デサント、元シックのアルファ・アンダーソンとディーヴァ・グレイ、パット・ルイス、ティト・ジャクソン、タイカ・ネルソンらもこの世を去っています。
とはいえ、いつ生まれた曲であろうと、その作品に初めて出会うリスナーにとってはそこがリアルタイムなわけで、そう考えればやはり2024年も注目すべき復刻や発掘は多々ありました!
2024年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれだ!
選・文/林 剛
70年代ソウルのアルバムでもっとも再発が待ち望まれていたルーサー・ヴァンドロス率いるグループの名作が伝記映画公開のタイミングで初CD化。こちらは3人組となっての2作目で、ナイル・ロジャーズもギターで参加。フィリー・ソウルとNYディスコの隙間を埋めるモダンな楽曲、そして当時から変わらぬヴェルヴェット・ヴォイスに改めて感嘆した。後にアレサ・フランクリンも歌う冒頭のバラードから引き込まれる。
黒人クィア文化の象徴的存在でもあったディスコ界の奇才が79年3月にサンフランシスコで行ったライヴの完全版。音源の一部は同年の『Living Proof』に収録されたが、未発表部分も明かされ、歴史的なコンサートの一部始終を伝える貴重なドキュメントとなった。盟友パトリック・カウリーやトゥー・トンズ・オー・ファン、地元の交響楽団を従えて、自曲やソウル名曲カヴァーを力強いファルセットで快唱。必聴。
デトロイトを経てシカゴを拠点に活躍したシンガーのABC原盤となる73年作はこちらが初CD化。デヴィッドT・ウォーカーら西海岸の名手を従え、テリー・キャリアー作の曲も歌った快作で、CDには初期にフィリップスから出したシングルなど11曲が追加され、アンソロジーに近い強力盤に。「ソウル・トレイン」の全国初放送時に歌ったノーザン・ソウルの人気曲や74年にABCから出したモダンなシングルも聴ける。
秘境の域に達したTKのリイシュー。ヴァラエティ夫妻を含むオークランドのグループがマイアミに拠点を移して発表した3作目。オリジナルは自主レーベルからのリリースだが、ロウレル・サイモン、トム・トム、EW&Fのホーン隊などを起用した内容はメジャー級のクオリティを誇る。西海岸で展開したシカゴ・ソウルといった趣で、ディスコ調の陽気なアップはサルソウルから出された12インチ・ヴァージョンも追加収録。
MFSBリズム隊の中核で、トランプスを率い、4つ打ちのディスコ・ビートを世界に広めてハウスの礎を築いたドラマー、アール・ヤングの名演集。フィラデルフィア・インターナショナル設立前夜からその絶頂期を経てサルソウルのディスコ・チューンへと行き着く流れは、フィリー・ソウルの歴史そのもの。クライド・マクファターやチャールズ・マンのフィリー詣で曲も収録。本人インタヴューを含むブックレットの資料性も高い。
テスト盤だけが存在した77年制作の未発表アルバムが47年の時を経て世に出た。細野晴臣がプロデュースしたシティ・ポップの源泉的な一枚だが、主役は後にダイナスティのメンバーとしてLAのソウル・シーンで活躍するニューオーリンズ出身のソングストレス。ソウル〜フュージョン路線の洒脱な演奏に乗って英語詞で歌う内容はブルーノート時代のマリーナ・ショウなどを彷彿させる。今後はソウルの名盤に加えたい。
ポルノ業界の黒幕マイケル・シーヴスが主宰し、ホットランタやアウェアの親会社だったGRCのコンピ。全24曲のうち大半が初公開となる未発表音源集で、ミス・ルイスティンが歌う“Con Me”など、テープ発掘にも尽力したサム・ディーズのペンによる楽曲を中心に珠玉のソウルが並ぶ。アトランタという地域性に縛られず、ディープからモダン、サイケ・ファンク、カントリー風まで、70年代ソウルの旨みが凝縮されている。
2023年に83歳で逝去した、人呼んで〈ロックの女王〉。ソロ・デビュー50周年のタイミングで70年代のソロ4作がCD化されたが、こちらは当時本国USではリリースされず欧州でアリオラ/EMIなどから出された4作目。仏ディスコの名匠アレック・R・コスタンディノスが制作したディスコ・ソウル盤で、オージェイズやパティ・ラベルのカヴァーを野性味たっぷりに歌う様は〈ボールド・ソウル・シスター〉と呼ぶに相応しい。
![](https://mikiki.ismcdn.jp/mwimgs/0/f/200wm/img_0f58d8e89443394b7bad15c1b600b5a2221494.jpg)
ボブ・スタンリーが選曲したトム・ベル作品集の第2弾。4年前に出た第1弾の収録曲は60年代から70年代中期までだったが、没後企画となった今回は70年代後半〜80年代初期にもスポットが当てられている。エルトン・ジョンやディー・ディー・ブリッジウォーターのフィリー詣で曲など、ベル&ジェイムスを従えてディスコの狂騒を潜り抜けたモダンでマイルドなフィリー・ソウルは前掲のルーサーにも通じている。
![](https://mikiki.ismcdn.jp/mwimgs/f/0/200wm/img_f0de08fe2f847e9711f0dcf71fc46171372931.jpg)
75年に設立されたサム・ワイス主宰レーベル=サムのCD 3枚組アンソロジーは、7インチ版のパッケージも含めて大いに惹かれた。ジョン・デイヴィス率いるモンスター・オーケストラのほか、同社ではシングルのみとなったヴィッキー・Dや元ファースト・チョイスのワーデル・パイパーなども収録。ディスコ全盛からヒップホップやエレクトロの台頭まで、往時のNYシーンを快活なダンス・ミュージックで追体験する時間は至福。