[特集]Throwback Soul(後編)
R&Bの入手困難盤が大挙リイシュー! ヒップホップ・ソウル時代に生まれた作品の数々を、スロウバック目線だけじゃない角度から語ってみました!

 ソウル/ファンク/R&Bシーンにおける定番・裏名盤・入手困難盤を復刻してきた〈Throwback Soul〉シリーズ。今回は〈ニュー・ジャック・スウィング/ヒップホップ・ソウル・エラ:ネオ・ソウル前夜編〉という括りで、88~95年リリースの40タイトルが2か月に分けて登場します。というわけで今月もその時代からリアルタイムでR&Bに親しみ、同シリーズで一部の解説も執筆する音楽ライターの林剛さんに注目ポイントを語ってもらいました。


 

Aaron Hall

ポストNJS世代の音

「それで言うと、アーロン・ホールの『The Truth』は……」

出嶌「世代的には決定的な名盤なんですけど、なぜかアルバムはサブスクだと穴空き状態なので、この機会に評価のギャップは埋まってほしいです。で、今月紹介するのはラインナップのうち主に93~95年産の作品ですが、ここがいわゆる〈ヒップホップ・ソウル・エラ〉ということで、ニュー・ジャック・スウィング(NJS)のブーム後に来たムーヴメントということになりますね。もともとはメアリーJ・ブライジの登場時に付けられた〈クイーン・オブ・ヒップホップ・ソウル〉というキャッチから広まった言葉という感じでしょうか」

「そうですね。端的に言うと、ヒップホップのトラックに、ラップではなく歌を乗せたもの。打ち込みやサンプリングによるループ感のあるトラックにR&B由来のヴォーカルを乗せて表現した音楽をそう呼びました。単純に〈ヒップホップとソウルの融合〉ということでは、例えばデフ・ジャムにいたオラン“ジュース”ジョーンズやアリソン・ウィリアムスのようなシンガーが80年代からやっていたわけですが、ヒップホップ世代あるいはポストNJS世代のシンガーとしてその先頭に立ったのが、メアリーJ・ブライジだったということになります」

出嶌先月紹介したポートレートの『Portrait』(92年)とかもNJS風味でありつつ作りはヒップホップ・ソウルの曲があったり、それで言うと92~93年が時代の変わり目という感じになりますね」

「そうなんですよね。アーロンの“Don’t Be Afraid”はサントラ『Juice』(92年)に入ってるオリジナルが好きだったんですけど、93年だとボム・スクワッドはもう旬な雰囲気ではなくなっていましたし」

出嶌「はい。とはいえ、この『The Truth』みたいな作品は後にも先にもない気がします。フォロワーという意味では直系のジョデシィやR・ケリーがもっと傑作を残していますけど、アーロン自身の次作も含めてこの謎の魅力は出せてなくて」

「わかります。ここでのアーロンは気合い入りまくってますよね。ガイが解散してNJSが終わった後に、もう一人でそのシーンを引っ張っていくぐらいの意気込みを感じます。一方のテディ・ライリーはブラックストリートを結成するけど、ビートよりハーモニーを重視した方向になっていって」

出嶌「ブラックストリートも“Baby Be Mine”(93年)の頃はややNJSの延長でしたけど、この『The Truth』はそれともまた違うんですよね。歌も音もゴツゴツしてる」

「ゴツゴツしてますね。プロデュースしたヴァッサル・ベンフォードの力も大きかったのかもしれないです。当時はアーロンとセットでジェイドの“Don’t Walk Away”がすっごい好きで、誰のプロデュースなんだろうと思ったらヴァッサルの名前があって、あ、この人が好きなんだなと思って。このゴツゴツした音ってテディとも違うし、ガイのカラーをキープしながら新しい時代に向かっていくような勢いを感じました。それで言うと、例えば“Open Up”はむしろヒップホップ・ソウル的というか、同時期に出たブラック・ムーンの“Who Got The Props”と同じロニー・ロウズ“Tidal Wave”をサンプリングしてたのでよく覚えてるんですけど、その意味でも『The Truth』はNJSとヒップホップ・ソウルの架け橋みたいなアルバムだったのかな。ニュー・ジャックな俺を貫いてヒップホップ・ソウルに向かうような、前のめりな感じがパワーとなって現れている作品ですよね」