時代を越えてニュー・タイトルが続々と登場してくるソウルの世界。どんなに現実が地獄であろうと音の中は天国!?ってことで、今回は2023年の収穫を総決算しておきましょう。多彩なリイシューや発掘などでひしめく宝の山から、いまこそ聴いておきたい珠玉のアルバムとは!?
恒例のソウル復刻&発掘の個人ベスト、2023年版です。レギュラーな連載回が休みがちな年ではありましたが各レーベルごとの復刻トピックは豊富で、一方ではバレット・ストロング、ティナ・ターナー、ボビー・イーライといった巨星の訃報が届きました。他にもEW&Fのフレッド・ホワイトとシェルドン・レイノルズ、クラレンス・アヴァント、ルドルフ・アイズレー、パーラメントのファジー・ハスキンズ、スペンサー・ウィギンス、ジーン・ナイト、スウィート・チャールズ、ヴィッキー・アンダーソン、バイ・オール・ミーンズのジミー・ヴァーナーらもこの世を去っています。
とはいえ、いつ生まれた曲であろうと、その作品に初めて出会うリスナーにとってはそこがリアルタイムなわけで、そう考えればやはり2023年も注目すべき復刻や発掘は多々ありました!
2023年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれだ!
選・文/林 剛
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73年に記録映画として公開されたスタックス主催のコンサートが50周年を記念してノーカットで音盤化されたのは快挙だった。CD12枚組となるこの完全版には、6時間以上に及んだコンサートの模様を幕間のMCや演説も含めて進行順に収め、LAのサミット・クラブでの全ライヴ音源、エモーションズの教会パフォーマンスも収録。未発表音源は30以上で、冗長な部分もあるが、現場にいたかのような気分を味わえる。これは宝箱。
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シカゴ・ソウルの名匠クラレンス・ジョンソンが送り出したガール・トリオの編集盤。同時期に復刻された70年のアルバム『With Love From The Lovelites』も快作だが、70~76年のシングルや当時の未発表曲からなるこちらもモダンでスウィートな風街ソウルが満載だ。スタイリスティックス曲カヴァーがジャッキー・ロス版と同じオケであったこともこの復刻を機に正式に判明。リードのパティ・ハミルトンによるファンキーなソロ曲の収録も嬉しい。
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VARIOUS ARTISTS 『Tribal Rites Of The New Saturday Night: Brooklyn Disco 1974-5』 Ace(2023)
ディスコの再評価/再解釈が進むなか、映画「サタデー・ナイト・フィーバー」の原作となるニック・コーンのルポの名を借りて編纂されたディスコ揺籃期のダンサブルでモダンな70sソウル集。レア音源の収録を謳うものではないが、フィリー、NY、LA、デトロイトなどで録音された隠れ名曲が並び、ミーコ・モナルド(2023年没)らが手掛けたイントレピッズのフィリー風ダンサーも収録された。ボブ・スタンリーの選曲に外れなし。
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ユニークなリイシュー企画が続くスタックス。同社の裏方にして大半はシンガーとしても作品を残す面々が自身や他者のために書いた曲を歌ったデモ集は、CD7枚組で全146曲中140曲が未発表という物量と発掘力に圧倒された。特に他レーベルの作品として世に出た曲のデモ、どこからも出なかった曲のデモが並ぶDisc-4~7には感嘆。エディ・フロイドやマック・ライス、ベティ・クラッチャーの仕事ぶりが際立つ。
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CLARENCE REID 『Masterpiece - Clarence Reid 45s Collection From T.K. 1969-1980』 Solid(2023)
マイアミ・ソウルの怪人、クラレンス・リードがTKプロダクション時代に出したシングルをA/B面合わせて45曲収めた日本企画のコンピ。選曲・監修はDJの黒田大介で、原盤7インチが希少なインプレッションズ曲のカヴァーも含めてコンプリートに近い形で組まれたのは世界初だろう。他者の曲を真似た本歌取りに微笑しつつも、稀代のソングライターにしてファンキーな歌い手でもあったクラレンスに魅了される。
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THE SPINNERS 『The Complete Atlantic Singles: The Thom Bell Productions 1972-1979』 Real Gone(2023)
トム・ベルや彼の一派と組んで70年代を駆け抜けた、アトランティック移籍後のスピナーズ。その時代のシングルA/B面を品番順に収めた本盤は、ディオンヌ・ワーウィックとの共演を含めた流麗でポップなフィリー・ソウル名曲が惜しげもなく並び、図らずも2022年末に他界したベルへの追悼盤となった。“One Of A Kind (Love Affair)”はラジオ放送で不適切とされた歌詞をオミットしたプロモ・ヴァージョンも追加収録。
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ウィリー・クレイトンのヴァージョンで伝説化しているスロウ・バラード“Tell Me What’cha Gonna Do”を含む、74年のワンド原盤作。南部出身でシカゴにて活動したシンガー/ソングライターが鍵盤を駆使しつつデリケートかつ情熱的に歌ったモダンでファンキーな名作が、オリジナルに準じた形でシングルB面曲などを加えてCD化されたのも嬉しかった。マーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの名曲カヴァーも登場。
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17年前に急逝した〈リヴァートの兄〉によるソロ名曲を没後発表の音源なども含めてほぼ年代順に並べた3CD。特に当時シングルのみに入っていたライヴ音源やリミックスが半数近くを占めるDisc-3はファン垂涎で、カセットでしか聴けなかったシェリーナ・ウィンとのリック・ジェイムス&ティーナ・マリー“Fire And Desire”のカヴァーは待望の初CD化だ。マチュアの粋が理解されていた時代のR&Bがここにある。
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THE SALSOUL ORCHESTRA 『Christmas Jollies I & II: The Extra Jolly Edition』 SoulMusic(2023)
サルソウル・オーケストラが76年と81年に出したクリスマス・アルバム2枚と76年作のトム・モウルトンによるリミックス版を合わせ、シングル音源などを交えたこの豪華盤は、ファンへのホリデイ・ギフトだった。76年作所収の“Christmas Medley”は2パートに分けた79年の日本盤シングルでも収録。流麗なフィリー・サウンドをバックにヴィンセント・モンタナJrの娘が歌う“Merry Christmas All”は永遠の名曲だ。
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90年代R&Bがようやく復刻の対象となるなか、当時US本国では未発表だった作品に光が当てられたのも快挙だろう。日英のみでリリースされた女性4人組のデビュー作は、アン・ヴォーグに通じる艶かしくも健やかな雰囲気でニュー・ジャック・スウィングとヒップホップ・ソウルの中間を行く快作。唯一のヒット“Groove Of Love”の制作に関わったクーク・ハレルが現在も最前線で活躍中であることも含めて感慨深い一枚だ。