(株)フォトスタジオアライ 新井秀幸

オムニバス映画の秀作を体験したような、優歌競演の贅沢な一夜

 日常の傘をたたみ、両肩の雨滴をはらい、文化会館大ホールの扉をぬける。栁澤寿男の一振りで序曲(歌劇「フィガロの結婚」より)が開幕を讃え、〈TOKYO SYMPHONIC WAVE 2022〉が滑り出した。同公演は、小児がん患者/その家族/関係者たちへの支援を続ける〈ゴールドリボン活動〉に対するチャリティー募金をテーマとし、多様なアート活動を展開するRENAISSANCE CLASSICSと音楽事業数社の協力によって開かれた催し。京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団の響きに乗せて、ポップス⇔クラシック音楽の融合に挑む試みだ。先陣を切ったのは八神純子の“みずいろの雨”。続いて“Mr.ブルー”を披露したが、彼女の変わらぬ音域・歌唱力と相まって、当夜の編曲者(山下康介/藤森英明)の各手腕が早くも読み取れる。二番手のタケカワユキヒデは、編曲:金澤恭典の“ガンダーラ”“銀河鉄道999”“ビューティフルネーム”で臨んだが、実は八神の“Mr.ブルー~私の地球~”も、ゴダイゴの“銀河鉄道999(The Galaxy Express 999)”も山川啓介の詞作品。いずれも慈悲深い世界観と未来への先見性が、今日の耳にこそ染み込む内容を秘めている。さらに山川の〈“争い”という文字が辞書から消える その日まで〉という詞と、伊藤アキラ:作詞の〈名前 それは燃える生命〉というメッセージが妙に共振し合い、本公演で肩を並べる意義を覚えた(註:どちらも奈良橋陽子との共作詞でもある)。

(株)フォトスタジオアライ 新井秀幸

 「リハーサルの時から大好きな歌が沢山流れてきて、もうワクワクドキドキ、思わず涙してしまいました」とは、“アヴェ・マリア”の歌唱で休憩直後の空気を塗り替えた幸田浩子の談話。2017年にJ-POPの名曲カヴァー集『優歌(ゆうか) ~そばにいるうた、よりそううた』を発表している彼女らしい感慨だ。その返歌とばかりに亡父の“I LOVE YOU”を熱唱した尾崎裕哉。そしてトリは一段と盛大な拍手と歓声で迎えられたASKAの“PRIDE”。湾岸戦争勃発時に書き下ろされた“君が愛を語れ”、横浜少年少女合唱団とのコラボで♪この宇宙の/歌になりたい……と願う“歌になりたい”の3曲。「この20~30年で(人々が抱く)チャリティーの意味も随分変わってきたと想う」、伝える側のASKAが実感する日本人の変化だ。サプライズはオケ版“SAY YES”!! スタンディングオベーションに競演陣が出揃い、観衆と満足感を共有する。やまぬ喝采の大きさが、現情勢下での、世間の温度を物語っていた。

 


LIVE INFORMATION
RENAISSANCE CLASSICS
TOKYO SYMPHONIC WAVE 2022

2022年4月21日(木)東京・上野 東京文化会館 大ホール ※こちらの公演は終了しました
開演:19:00
出演:ASKA/タケカワユキヒデ/八神純子/尾崎裕哉/幸田浩子/横浜少年少女合唱団/栁澤寿男(指揮)/京都フィルハーモニー室内合奏団特別交響楽団
http://www.classics-festival.com/rc/tokyo-symphonic-wave-2022/