昨年は尾崎豊の息子としての半生を綴った自伝「二世」を上梓し、そして、初音源となったデジタル・シングル“始まりの街”をリリースするなど、本格的なアーティスト活動をスタートさせた尾崎裕哉。幼少期をアメリカのボストンで過ごした彼は、レッド・ツェッツペリンやAC/DCらをきっかけにギターを弾きはじめ、次第にジョン・メイヤーをはじめとするギタリスト/シンガー・ソングライターへ傾倒していったという。
「小さい頃から聴いていたのは尾崎豊、宇多田ヒカル、aikoなどですが、クラシック・ロックを知ってからギターを弾くようになって。20歳くらいまではギター・ソロばっかり練習してました(笑)。その後、エリック・クラプトンやジョン・メイヤーなどを聴いて、歌うためのギター、シンガー・ソングライター的なギターをめざすようになったんです。最近だとエド・シーランもすごく良いなと思います」。
そうしてオリジナル曲を作りはじめた彼だが、当初は尾崎豊の楽曲を参考にしていたため、「自分らしい表現が出来ず、葛藤していた」という。そこからバークリー音楽大学の短期プログラムなどでシンガー・ソングライターとしてのスキルを磨いた彼の音楽スタイルは、蔦谷好位置がサウンドの、いしわたり淳治が歌詞のプロデューサーとして参加したファーストEP『LET FREEDOM RING』にも強く反映されている。リード・トラックの“サムデイ・スマイル”は、アコースティック・ギターのグルーヴを大事にしたミニマルなトラック、厚みのあるコーラスワークを軸にしたミディアム・ナンバー。SALUがリリックを提供したラップ・パートを採り入れるなど、ヒップホップの要素も含まれた楽曲に仕上がっている。
「“サムデイ・スマイル”は、休みの日に家で弾いたギター・リフが元になってるんです。きれいな木漏れ日が射していて、〈この雰囲気に合う、前向きな曲を作りたいな〉と思って。曲のアイデアは、自分の半径10m以内で生まれる曲ことが多いですね。生活のなかで起きたこと、感じたことをピックアップしているんですけど、それは聴いている人にも共通しているんじゃないかなって。誰でも家族があるだろうし、寂しい思いだったり、人と寄り添いたいという気持ちを抱えながら、自問自答していると思うので」。
2曲目の“27”は生々しいライヴ感が伝わるバンド・サウンドを前面に出した楽曲。〈僕が僕であるために背負うことが多すぎた〉という過去の葛藤、そして、27歳になったときの感情がリアルに描かれているアップ・チューンだ。
「自分がもがいていたときのイメージがたくさん詰まっている曲ですね。27歳になって〈あのときの葛藤にも意味があったんだな〉と客観的に見ているような感覚もあるし、その経験を活かして生きていきたいというメッセージも込めてます。父親の年齢を越えたこと、父親が見られなかった景色を見に行きたいという思いも含まれてますね」。
さらに「“始まりの街”はオーケストレーションを採り入れたバラードだったから、ライヴで演るためにリアレンジしたくて」という意図で制作された同曲の〈Soul Feeling Mix〉、〈なぜ人は人を愛してしまうのか?〉という根源的なテーマを掲げたソウルフルなバラード“Stay by my Side”を収録。彼自身が敬愛するキング牧師のスピーチから引用したという『LET FREEDOM RING』(自由の鐘を鳴らせ)というタイトルが示す通り、この作品をきっかけにして尾崎裕哉は、その豊かな創造性をさらに解放することになりそうだ。
「このEPは自己紹介の一枚だと思っていて。まだ自分の一部しか見せてないので、今後もヴォーカリスト、ギタリストとしていろんな面を出していきたいです。どうなるか予想ができないようなシンガー・ソングライターでいたいし、常に変化していたいと思っています」。
尾崎裕哉
89年、東京生まれのシンガー・ソングライター。2歳のときに父・尾崎豊が死去。その後、母と共にアメリカに渡り、15歳までの10年間をボストンで過ごす。2005年に帰国後、バンド活動を開始。ライヴの経験を重ねるなか、バークリー音楽大学の短期プログラムへの参加などを通じて音楽スキルを磨く。楽曲制作とステージの傍ら、2010年より開始した「CONCERNED GENERATION」、2013年から2015年までの「Between the Lines」といったラジオ番組のパーソナリティーを務める。2016年8月に自伝「二世」を出版し、9月には初音源となるデジタル・シングル“始まりの街”を発表。このたび、ファーストEP『LET FREEDOM RING』(トイズファクトリー)をリリースしたばかり。