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ロンドンとの交感で生まれた挑戦曲“罠”

――『XinU EP #01』から『XinU EP #02』にかけて、自分なりに進化したなって思うところはどこですか?

XinU「『XinU EP #01』は自分のことを書くので手一杯で、だからああいう私小説的なものになったんですけど、それ以降はさっき言ったように聴いてくれる人の顔が浮かんだりするようになった。身近にいる大切な人に思いを馳せる時間が多くなり、そこから生まれた曲もありますし。

あと、以前は前向きなことをあまり言えないところがあったんですけど、最近は寄り添うよりも少し前を私が歩いてみようかなと思えたりするようにもなりました」

――確かにそういう曲も今回ありますね。

XinU「はい。あとは言葉の乗せ方ですね。特に“罠”と“まだまだ”がそうですけど、音に対してどうしたら気持ちよく言葉を乗せられるかに拘りました。

一番拘ったのは“罠”。ロンドンのedblさんとタウラ・ラム(Taura Lamb)さんがメロディを作ってくれて、デモにはタウラさんの英語詞が乗っていたんですけど、それを聴くと本当に気持ちいいグルーヴで、日本語詞にするにしても絶対これを崩したくないなと思って」

『XinU』収録曲“罠”

――XinUさんによる日本語詞になっていますが、これはタウラさんの書いた元の英語詞に近いものなんですか?

XinU「完全に寄せているわけではなく、インスピレーションを受けて日本語を書いた感じです。タウラさんの英語詞を訳したら〈気持ちを弄ぶ〉とか〈騙す〉といった言い回しがあって、自分で書く詞にそういう言葉は絶対出てこないし、〈罠〉という言葉にしても普段口にしたりしない。けど、そこから広げて書いてみたら今までの私の世界観とは違うものになるんじゃないかと」

松下「タウラさんはウェットなR&Bのメロディを書くんですよ。それをXinUに当てはめたら面白いものになるんじゃないかとは思っていたんですけど、想像以上でしたね」

――聴いて、僕もこの曲が一番フレッシュに感じました。明らかに次の段階に進んでいる。歌詞もいいですね。年相応の女性らしい歌詞で、センシュアルなムードがある。とりわけ出だしの〈解けて溶けて無くなっていけ〉というフレーズにやられました。この一言でつかまれる。〈無くなっていく〉じゃなくて、〈無くなっていけ〉と歌っているのが素晴らしいなと。

XinU「ありがとうございます。これは……願望ですね。初めにサビの〈そのまま触れてほしいから〉というところがスッと出てきました。

タウラさんの英語詞から想像を膨らませて書けた部分もあるし、自分のリアルな記憶があったからスッと書けた部分もある。その両方がうまく合わさってひとつのストーリーになりました」

――〈指一つで始まる合図に〉というところとか、色っぽいですよね。

XinU「メロディがこういう歌詞を呼びこんだっていうのもあります」

――ただ面白いのは、女性の気持ちを歌っているものと思いきや、〈そう思っていたのは僕だけ〉〈言葉はいつも僕から〉というふうに主語が男性に反転する。と思ったら、やっぱり女性が男性に対する気持ちを歌っているようで、そのあたりが曖昧なままというか、混ざりあいながら進んでいきますよね。

XinU「〈言葉はいつも僕から〉と歌っているところは、書いているときは実はどっちでもいいと思っていて、音的に2文字がよかったから〈僕〉にしたんですけど、〈悔しいくらい綺麗に映る/君の素肌にちょうどいい 部屋の明かり〉というのは自分の記憶だったりします。だから男女どっちかの目線だというふうに限定できないストーリーになっていて」

――そこをハッキリさせるとリアルすぎてしまうということで、そうしたんですか?

XinU「生々しすぎるかなというのは確かにありました。〈僕〉とすることで生々しさが軽減するかなと」

――曖昧にして聴く人に想像させるよさもあると思うけど、リアルに書くことのよさというのもあるじゃないですか。

XinU「ああ、そうですね。昔よりは大胆に書くようになったし、特にこの歌詞は今までの私なら書かなかった言葉を使って書くのが自分でも面白かったわけですけど、やっぱりまだブレーキがかかるところはあって。最近自分のアプリで自分の書いた詞を朗読するということをやっているんですけど、“罠”はまだ読む気になれない(笑)」

――ボーカルに関して特に意識したところはありますか?

XinU「高い音がずっと続くので歌うのは難しいの一言なんですけど、この間BLUE NOTE PLACEのライブで初めてお披露目したときに思ったのは、フロウを一番に考えて最後まで歌おうということで」

――なるほど、それは正解でしょうね。言葉のハメ方からしてラップにおけるフロウのようだし、XinUさんの息を吐くような歌唱法とそれが合っている。

XinU「スタミナを持たせるのがけっこうたいへんな曲ではあるんですけど、一生懸命歌っているみたいに聴こえたらこの曲のよさが失われてしまうと思うので」