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誰に対しても分け隔てないカジュアルで素敵な人たち

――DYGLは2018年にビーチ・フォッシルズとツーマンライブという形で共演されましたが、その時の印象はどうでしたか? 2018年は、DYGLはファーストアルバム『Say Goodbye To Memory Den』しかまだリリースしていない頃で、ビーチ・フォッシルズは前作にあたるサードアルバム『Somersault』(いずれも2017年)をリリースした後の時期でしたが。

「そんな前だったんですね。もっと最近だったような気がしちゃいますけど(笑)。

まず、〈良いな〉と思ってたバンドと一緒にやれることが決まった時は素直に嬉しかったですね。それで当日を迎えて〈もうちょっとで来るね……〉ってワクワクした感じで待っていたんですけど、いざビーチ・フォッシルズのメンバーが会場に来たら、彼らはみんな凄くリラックスしてて。〈君たちの音楽はどんな感じなの?〉とか〈着けてるネックレス良いね〉とか、昔から友達だったかのようにカジュアルに接してくれたんです。誰に対しても分け隔てなく、人を人としてちゃんと見てくれる素敵な人たちだと感じました。

元々バンド全体のムードがずっと良いなと思ってたんですけど、僕はちょうど『Somersault』の時期に彼らの音楽にしっくりきて、それで前のアルバムを含めて聴き直したことで、自分の中でさらにしっくりきてたんです。なので、自分がライブを本当に見たいって思えていた良い時期に対バンをさせてもらえましたね。お客さんの雰囲気も、本当にみんな来日を心待ちにしていたんだなって雰囲気でしたし。

以前、アジアツアーに行った時にビーチ・フォッシルズのような音楽をやっているバンドとたくさん対バンして、凄い影響力だなってその時に思ったんです。アジアのリスナー層にも響く情調がビーチ・フォッシルズにはあるのかなって」

『Somersault』収録曲“Saint Ivy”

DYGLの2017年作『Say Goodbye To Memory Den』収録曲“Let It Sway”

 

共感しっぱなし。変わらず気取らない新作『Bunny』

――今のお話にもあったようにサードアルバムでビーチ・フォッシルズの音楽性が少し変わったと思うんですけど、そこから6年近くが経ってリリースされた新作の『Bunny』を聴いてみて、どんな印象を受けましたか?

「まだそんなにたくさん聴けてないので、印象はまたどんどん変わっていきそうな気はしています。

サードからもっとクリアな、いわゆるハイファイなサウンドの方向に行くのかなと思ってたんですけど、音像はむしろ初期の感じでした。ビーチ・フォッシルズを聴いて憧れたバンドが始めたバンドなんじゃないかって雰囲気がするくらい気取らない感じがするというか(笑)。

それは本人たちに会った時にも思ったんですけど、全然気取らない感じがあって、音楽が好きで〈バンドをやろう〉と言った瞬間からここまで本当に変わらず同じままで来たんだなって雰囲気がありますね。その感じが音に出ているなって今回のアルバムは凄く感じました」

『Bunny』収録曲“Don’t Fade Away”

――僕も同じ印象を受けました。サードに入っていたストリングスとかのアレンジがもっと入るのかなって思ったら全然そんなことはなくて、初期の雰囲気も感じられるようなところがあって。

「10年、20年経ってからビーチ・フォッシルズを知らない人がアルバムを聴いて、リリース順を予想して並べたら、きっと順番を当てられないだろうなって(笑)」

――歌詞を見ても、子供が生まれて父親になったことの喜びを歌っていたり、昔の自分と比べて変わったと振り返っていたりしつつ、変わらずに喪失感みたいなものをずっと抱えてもいて。キャリアを重ねて成熟していっているのと同時に、そういう初期から変わっていない部分を持っているバンドの変化の仕方が素敵だなって思いました。

「そうそう。自分たちのスタイルを変えないでここまで来ているんですよね。〈これをやりたくてやっているんだ〉と感じるようなバンドって意外といそうでいないと思うんですよ。3枚目を出して、4枚目でこういうムーブをして、しかもいやらしさがない。そういう意味でも、今作は人柄を感じましたね。

『Bunny』収録曲“Dare Me”

逆にサードの時はどういう思いであのアルバムを作ったのかが気になりますね。サードも曲ごとにアレンジの筋が通っている感じがするので、無理はしていないと思うんですけど。そこも振り返った上で今回のアルバムをどう思っているのか、ちょっといつかインタビューして聞いてみてください(笑)。バンドが何を考えているのか、気になり過ぎますね」

――ビーチ・フォッシルズのダスティン・ペイサーとその妻のカティエがやっているレーベル、バヨネット・レコーズ(Bayonet Records)のビーチ・フォッシルズのページに〈セルフプロデュース、セルフマネージメント、セルフリリース〉という言葉があって、ビーチ・フォッシルズはことさらそういうDIY的、インディ的な姿勢を大事にしているんじゃないかと感じます。そういう部分はDYGLも近いところがあるんじゃないかと思いますが、共感するところはありますか?

「共感はもうしっぱなしです。もちろん国の違いとかもある程度あるんじゃないかって思うんですけど。スタジオや練習できる環境も本当に自分たちで作っていて、それをサポートしてくれる周りのチームにしてもアメリカだったら一つのジャンルに対して色んな頼れる人たちがいる。

でも日本だと、このサウンドだとどうしても一緒にやれるエンジニアさんやイベンターさん、練習できる場所の選択肢が色々と限られてくる。それもあって、インディの自分たちはメジャーの資本とどうやっていくのかを考えて、なんとかその間を突くことでここまでやって来ました。それをやりきれているなって思うビーチ・フォッシルズのようなバンドに対して憧れはありますね」