約6年ぶりのリリースとなるビーチ・フォッシルズの4作目のアルバム『Bunny』にはキャリアを重ねた成熟、前作で生み出された強いメロディ、そして初期の青さと喪失感、その全てが含まれている。ネオアコのようなきらめきに少しサイケがかった気怠さ、ポストパンクの残り香。このアルバムの中に漂う空気は青春映画のように傷つき、新しい喜びを見つけ、ニューヨークの街のムードを感じさせ、そうして聴き手に柔らかく寄り添うように進んでいく。

ビーチ・フォッシルズはダイヴ(DIIV)やワイルド・ナッシング、ミンクスらと共に、2010年代に盛り上がったキャプチャード・トラックスのバンドたちを中心としたブルックリンのUSインディシーンの中で活躍し、後のバンドに影響を与えたバンドだ。気取らない自然体でありながらも、その中で変化していったバンドの歴史を追うと、同時に受け継がれ変わっていくシーンや時代の変化が少し見えてくるような気もしてくる。 

結成から15年、自分たちのレーベルを始め、DIYのスタイルにこだわり活動している彼らの今の形とその魅力について、共演経験もあるDYGLの秋山信樹に語ってもらった。

BEACH FOSSILS 『Bunny』 Bayonet/Pヴァイン(2023)

 

〈音楽をやりたい〉と思わせるパワー

――秋山さんとビーチ・フォッシルズとの出会いはどのようなものだったのですか?

「元々、僕らがバンドを始めた2011、2012年頃に知りました。その頃って、キャプチャード・トラックス周りのUSインディの動きがちょっとずつ始まっていたような雰囲気で。正直に言うと僕はまだレイザーライトやジ・エネミーといったUKロックを引きずっていたので、そのトランジションについて行けなかったんです。なんていうか、色合いが凄く淡くなった音楽が聞こえてくるなと思っていました。だから最初のイメージは〈いま何が起きているんだろう?〉って感じでしたね。

最初に自分的にしっくり来たキャプチャード周りのバンドはダイヴだったんですけど、ダイヴはグランジだったりオルタナだったり、それまで自分が聴いてきた音楽とも繋がりがあったから聴きやすくて。そこから(ダイヴの)周りのバンドを聴いていくうちに、だんだんビーチ・フォッシルズの存在や音楽がしっくり来るようになったという感じですね。だから最初は、ある意味でびっくりしました」

ダイヴの2012年作『Oshin』収録曲“Doused”

――当時は本当に色んなバンドがキャプチャード・トラックス周辺に集まっていて、次から次へと新しいバンドが出てきて、シーンとしても大きな盛り上がりを見せていました。そのシーンについてはどんな印象を持っていましたか?

「最初はそこまで真剣にとらえていたわけではなくて、〈新しい流れがあるんだな〉という感じでした。

ただ友達と遊びで〈バンドをやろうぜ〉って話をしている中で、昔の3コードのパンクみたいなわかりやすさがキャプチャード・トラックス周りのバンドにはあるなと感じることがあって。ドラムがこう鳴ってて、ベースがこうで、ギターの単音がこう鳴ってて、このムードになるんだ、っていうような。自分たちが音を出す中で、ああいう感じのサウンドをセッションでやってみるのも面白いんじゃないかなって話も結構していましたね。

なので、個別ではなく全体でとらえていた感じかもしれないですけど、徐々にそこにある気持ち良さだったり、キャプチャード・トラックスのバンドたちが共有している一つのムードだったり、美意識だったりを感じて、格好いいなって思うようになりました」

――その頃のキャプチャード・トラックスのバンドたちには何かが始まりそうなワクワク感があったじゃないですか。それこそビーチ・フォッシルズもそんなバンドで。そういう音以外の部分でもインスパイアされたところはあったんですか?

「それはあると思いますね。手作り感というか。

2000年代はUKロックの流れの中に色んなバンドがいたと思うんですけど、2010年代初頭になると、その周辺のバンドはみんなある程度マスになってきちゃって。僕が一番好きだったのはザ・ヴューだったんですけど、ああいうちょっとヘタで、〈自分たちでも出来そう〉と感じさせてくれるバンドがそもそも好きだったんですね。

そんな中、キャプチャード周りのバンドには聴き手に〈音楽をやりたい〉って思わせるパワーがあったんじゃないかと思いますね。アートスクールに通っているわけでもない僕らみたいな普通の大学の軽音楽部の子たちにも〈こういう音楽をやってみたいね〉と思わせる力が凄くあったんじゃないかって」