拠点をロンドンに移して臨んだ2作目は、一点突破なアプローチの初作から一転、多様な音楽スタイルを手繰り寄せた作品に。60年代のサイケ・ポップやガレージをベースに、70年代の英国モダン・ポップの薫香やプログレ的な展開をも織り交ぜた楽曲の数々は、MGMTの2作目やアリエル・ピンクの諸作などにも通じるニッチでポップな輝きを放っている。バンドとしての深化と底知れぬポテンシャルを示した傑作だ。

 


イギリスに拠点を移し2年ぶりのリリースとなるセカンド・アルバムは、優しさとソリッドさの同居したガレージ・ロックのテイストは残しつつも、どこかサイケで幻想的。霧のなかで見つけた花畑のような美しい光景がそこに。音源化が待たれていた“Nashville”収録。

 


国内インディー・ロックの雄、DYGLがロンドンに移住、その拠点をイギリスにするというニュースを聞いたとき筆者の脳裏に浮かんだのは、ファット・ホワイト・ファミリーシェイムといった南ロンドン発のポスト・パンク・バンドを参照点に変化していくのでは、という想像(妄想)だった。もとより熱心なインディー・リスナーとして知られるバンドだけに、この数年、活況を呈す同地のシーンへとヴィヴィッドに反応する姿をイメージしてしまったのだ。だが、その予想は大いに外れたと言っていい。彼らが元テスト・アイシクルズ(!)のローリー・アートウェルをプロデューサーに迎え作り上げた新作『Songs of Innocence & Experience』は、落ち着いたテンションとメロウネスを基調に、柔らかなサイケデリアを醸すアルバムとなった。

跳ねたビートの“A Paper Dream”や、ブルージーなガレージ・パンク“Spit It Out”などロックンロール調の楽曲も収録されているものの、いずれもハチャメチャな勢いというより、スマートで軽やかな印象。それ以上に冒頭曲の“Hard To Love”や“As She Knows”といったメロディアスなナンバーや“Nashville”など艶のあるバラードが耳を引く。そして、多くの楽曲で歌われているのは、愛を求めていながら、その狂おしい情熱ゆえにこそ振り回され、なかなか幸福な結末へと辿りつけない若者の姿。ファンなコーラスや力みのない歌とあいまって、シリアスになりすぎず、おかしみを感じさせるところがすごく良い。このユーモラスな感覚を、特に英語詞で描けている日本のバンドは少ない。カジュアルで洒脱、だけど紛れもなくロック。わずか2作目にして、DYGLは彼ら特有の居場所を築き上げた。