
ネットがなかった時代の奇跡の出会い
クリス「話が随分先に行っちゃったんですけど。長門さんと達郎さんの出会いのお話もあって。四谷のディスク・ジョッキーですよね?」
長門「ディスク・チャートですね」
クリス「ディスク・チャート! 〈ディスク・ジョッキー〉なんて言っちゃった(笑)」
会場「(笑)」
長門「ご存知のように今回は、『FOR YOU』から始まったRCAイヤーズの再発記念イベントですよね」
クリス「アナログの再発は2002年のボックスセット以来ですよね。(会場に)ボックスセット持っている方、いらっしゃいます? (手を挙げた観客を見て)は~。今日は長門さんが用意してきてくださったんですよ。ほら!」
会場「お~!(拍手)」
クリス「今、いくらぐらいするか知っていらっしゃる方、います?」
長門「これは当時2万円で、1枚あたり2,500円ですね。現在、新品に近いもので20万円近くするそうです」
クリス「は~。これを今日は、会場のみなさんにプレゼント!」
会場「(笑)(拍手)」
クリス「それは冗談ですが(笑)。貴重なものは仕舞わせていただきます」
長門「(『FOR YOU』の再発盤を取り出して)これは今日買ったんです」
クリス「素晴らしい! 『FOR YOU』はなんと、82年以来41年ぶりにオリコン週間チャート4位! すごくありません?」
会場「(拍手)」
長門「発売日に買おうと思ったんですけど、昨日まで九州にいて」
クリス「話があちこち飛んじゃうとまたわかりにくくなるので、そういうエピソードは大丈夫です(笑)。
で、シュガー・ベイブがアマチュアバンドとして長崎や青山でコンサートをした話になりましたけれど、長門さんがマネージャーになるきっかけになった山下少年との出会いは? 恐ろしいですが、あえて〈山下少年〉と呼びます」
長門「〈少年〉かな~?」
クリス「ええっ!? だって10代か20歳でしょ?」
長門「20歳くらいでしょうね。ター坊が19歳ぐらい」
クリス「学生でした?」
長門「山下くんはまだ大学生だったか、中退した頃だったのかな?」
クリス「お2人がお会いになったきっかけっていうのが、ディスク・チャートというアメリカのロックをかけるお店で……」
長門「当時はブルースロック、ハードロックが全盛だったんですよ。レッド・ツェッペリンとかディープ・パープルとかね。その中で僕が働いていた四谷のお店は、ヤングブラッズとかラヴィン・スプーンフルとかローラ・ニーロとかをかけていた」
クリス「ヤングブラッズは、それこそシュガー・ベイブの名前の由来になったバンドですよね。
(会場に)ヤングブラッズってご存知ですか? もうやだ! 今日のお客さん、すごいのよ!! みなさんね、〈知ってる、知ってる〉って顔してうなずいてる。達郎さんに言わせると、シュガー・ベイブの頃からご存知で、コンサートをこうやって(腕を組んで)見ているお客さんばかりですね」
会場「(笑)」
クリス「そういう、ありがたいファンの方々です」
長門「で、〈SURFIN’ RABBIT STUDIO〉名義で自主制作盤『ADD SOME』を作ったメンバーの武川(紳一)くんが〈四谷に面白い店ができたらしい〉とディスク・チャートを覗いて、山下くんを〈今度行ってみよう〉と誘ってくれたんです。72年の12月だったかな」
クリス「すごいですね。月まで覚えていらっしゃるんですか?」
長門「お店の開店が11月だったので」
クリス「そのお店っていうのも、達郎さんに言わせると実は期間限定だったと。長門さんは逆にご存知なかったそうですが」
長門「ジャズ喫茶の〈いーぐる〉が道路拡張工事のため一時お休みするということで、オーナーの後藤(雅洋)さんが友人のすすめでロック喫茶を表通りにあったビルの地下に作ることになったのですが、世の流れと違う音楽をかけていたから、お客さんが入らなくて半年で潰れちゃったんですよね。そこに、いーぐるが移ったと」
クリス「私が言いたかったことは結局、奇跡だったっていうことですよ。短い間、長門さんがお店をやっていて、かかっている音楽が当時からすると珍しかった。達郎さんがそれを聞きつけて、そこに行った。インターネットがない時代ですからね。それって奇跡じゃありませんか?」
長門「口コミですからね」