
以心伝心で決まったバンド名
クリス「その現場に達郎さんを誘ったんですよね?」
長門「そうそう。それで夜中というか明け方に山下くんが車で来てね」
クリス「実家のパン屋さんの車でやってきた! それは知りませんでした」
長門「村松(邦男)くんなんかもいてね。途中、休憩している時に山下くんが、そこにあったギターをポロポロ弾き始めて」
クリス「別に〈弾いて〉と言われたとか、そういうわけじゃなくて」
長門「やっぱ楽器があると触りたい、弾きたい、歌いたい、となるのでしょうね」
クリス「それが、20歳ぐらいの山下少年だった」
長門「それで、クイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスなんかを弾き語りで歌ってね。それを聴いたター坊が〈何、この人?〉って驚いて」
クリス「それは良い意味で?」
長門「そうそう。〈歌がうまい〉と。それが最初ですよね」
クリス「大貫さんは元々デビューを目指していたけど、達郎さんは〈プロの歌手になろう〉ということじゃなくて、たまたまそこに来ていたという」
長門「山下くんは〈自分のバンドを作りたい〉という思いがあったから、大貫さんを誘って、キーボードとボーカルとして自分のバンドに入れちゃった。
僕は全然知らなかったんです。ター坊と山下くんからほぼ同時に相談があって、〈バンドを作るんだ〉〈誘われたの〉と言うんですよ」
クリス「びっくりですか?」
長門「びっくり。〈えっ、いつの間に?〉って感じで。
リハーサルは、練馬の並木(進)さんの家のガレージの2階、そこでやっていたんですね。僕も何回か見学しました。
で、何回目かの練習の時に〈バンドの名前を決めなきゃ〉という話になって。僕は電車で並木さん家に向かっていて……以前見た『砂丘』という映画に砂漠を車で走るシーンがあるのですが、ヤングブラッズの“Sugar Babe”が流れるんですよ。その時に〈これだ!〉と思って、成増の駅に着いてすぐ電話したら、ター坊が電話に出て……」
クリス「今のジェスチャーは携帯電話みたいですけど、細かいですが一応、公衆電話ですよね? 10円を入れて電話する赤電話」
会場「(笑)」
長門「そうそう。で、僕が〈いいバンド名を思いついたんだよ!〉と言ったら、〈決まっちゃったわよ〉って言うの。それが、〈シュガー・ベイブ〉。〈山下くんが考えたの〉って」
クリス「同じことを思っていたと」
長門「僕は、それを思い出すと未だにね……鳥肌が立ちます」
クリス「巡り合わせというか以心伝心というか。やっぱりお互い、引き合わせる何か運命的なものがあったのでしょうね」
長門「山下くん家で彼のレコードコレクションを聴かせてもらったりしていましたしね」
クリス「当時、達郎さんのコレクションをご覧になったんですか?」
長門「そうですね。趣味が近いんですよ。部屋の天井にベンチャーズの来日公演とローラ・ニーロの初来日公演のポスターが貼ってあったり」
クリス「それも、チャーリー・カレロのこととか色々繋がりますね」
長門「それで〈オリジナル曲を聴かせてよ〉って頼んで聴かせてもらったら、ぶっとんだんですよ」
クリス「どういう風にぶっとびました?」
長門「……“黄色い部屋”っていう曲だったかな?」
クリス「それが印象深かった?」
長門「そう。ブライアン・ウィルソンが書くようなサーフバラードで、声も本当に素晴らしい。これはすごいなと思って」