リリース自体がトピックとなる孤高の鬼才が何年かぶりに新作を投下! 自身のモードと時代のムードが絶妙に重なり合った地点から鳴らされる刺激的なサウンドの正体は……

いまなお話題を生む存在感

 エレクトロニック・ミュージック・シーンにおいて、異端的な存在感を放ち続けるエイフェックス・ツイン。アイルランド生まれの彼は、80年代後半頃から活動を始めて以降、数々の名盤と珍妙な言動で世間の注目を集めてきた。自身のSoundCloudアカウントuser18081971で突如音源を発表したかと思えば、前触れもなくNFTアートワークをオークションで販売するなど、定期的にメディアを賑わせている。

APHEX TWIN 『Blackbox Life Recorder 21f / In A Room7 F760』 Warp/BEAT(2023)

 そうした話題作りの上手さは、今回の最新EP『Blackbox Life Recorder 21f / In A Room7 F760』を発表するまでのプロモーションでも活かされた。本作のリリースを告げるに先立ち、多くの音楽フェス会場にインスタレーションを設置し、世界中のレコードショップにはアーティストロゴが隠されたポスターをばら撒いた。ちなみにそのポスターは、スマホのカメラなどで読み取り可能なQRコードが仕掛けられており、読み取ると彼が手掛けた拡張現実世界に入り込めるという仕掛け付きだ。

 このような前振りを経て世に放たれる本EPには4曲が収録されている。全曲合わせて15分程度という長さは小盛りとも言えるが、それぞれの曲に聴きどころがあるので紹介していこう。

 

各曲に溢れる彼らしさ

 まずはオープニングを飾る“Blackbox Life Recorder 21f”だ。本作のリリース発表時に公開された曲で、どこか郷愁的な響きを持ったシンセ・サウンドとアグレッシヴなジャングル・ビートが際立っている。そのビートは96年のアルバム『Richard D. James Album』的なドリルンベースの香りも漂わせるが、筆者からするとリキッドの“Sweet Harmony”といった90年代初頭のオールドスクール・レイヴを想起させる。そういう意味ではノスタルジックなサウンドと形容できるかもしれない。

 続く“zin2 test5”は、TB-303風のアシッディーなベース・ラインがうねるテクノ・トラックだ。ドレクシアあたりのダークなデトロイト・エレクトロが脳裏に浮かぶ静謐なサウンドスケープは彼のトレードマークで、長年のファンなら思わずニンマリするだろう。注意深くビートに耳を傾けると、エレクトロからドラムンベースに通じる拍に少しずつ変化していくのがわかると思う。そういった細かい芸を楽しめるのも魅力だ。

 3曲目の“In A Room7 F760”は、エイフェックス・ツインのパブリック・イメージにもっとも近い曲と言っていい。ビートはひとつひとつの音が細かく刻まれ、グルーヴは性急。2001年のアルバム『Drukqs』に収められていてもおかしくない不穏なサイケデリアを漂わせ、矢継ぎ早に変わる曲調もおもしろい。ヘヴィーなキックを筆頭に随所でクラブ・カルチャーの香りが匂う一方で、ノリが一定ではないグルーヴは身体を揺らしづらい。そういったひねくれた曲を作ることも〈らしさ〉のひとつだ。

 4曲目の“Blackbox Life Recorder 22 [Parallax Mix]”は、1曲目の別ヴァージョン的な曲だ。音数が少なめのジャングル・ビートを刻みながら、ミステリアスなシンセ・サウンドを鳴り響かせている。反復の気持ち良さを忠実に示すところはオーソドックスなダンス・ミュージックと評せるだろう。

 

現行シーンとの同時代性

 本作を聴いて真っ先に思い浮かんだワードは、〈同時代性〉だ。近年のダンス・ミュージック・シーンといえば、ニア・アーカイヴスやアーティスト集団のラウドLDNなどが牽引役となり、ジャングル/ドラムンベースの再評価が起きている。アングラなクラブから大型音楽フェスまで、さまざまなところから非4つ打ちの高速トラックが聴こえてくる。そのような現況と共振できるところが本作にはある。もちろん、これまでエイフェックス・ツインが残してきた作品にもジャングル/ドラムンベース要素はあり、だからこそ本作を時流に媚びた凡作と言うつもりは毛頭ない。それでも、2014年のアルバム『Syro』以降はその要素が比較的薄かったのもあって、ジャングル/ドラムンベース再評価の波と合わせるように、本作がリリースされることには驚いた。過去作よりもアレンジがシンプルで、よりわかりやすくダンスフロア向けの音を鳴らしているのも、この驚きを助長した。

 本作の〈同時代性〉は偶然かもしれない。とはいえ、いまのダンス・ミュージック・シーンの潮流と照らし合わせながら楽しめるのも事実であり、この点が従来の異端性とは異なるおもしろさとして耳に飛び込んでくるのも確かだ。そのおもしろさを紐解くためにも、『Blackbox Life Recorder 21f / In A Room7 F760』と合わせて、ニア・アーカイヴスやラウドLDN周辺の作品も聴くことをおすすめしたい。 *近藤真弥

エイフェックス・ツインの近作を紹介。
左から、2014年のアルバム『Syro』、2015年のEP『Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP』、2015年のAFX名義の編集盤『Orphaned Deejay Selek 2006-2008』、2016年のEP『Cheetah EP』、2018年のEP『Collapse EP』(すべてWarp)

 

エイフェックス・ツインのブラックボックスに繋がるかもしれない新旧のあれこれ

NIA ARCHIVES 『Sunrise Bang Ur Head Against Tha Wall』 Island(2023)

ジャングル/ドラムンベースが〈再評価〉される際に名の挙がることの多い俊英のEP。豪快なMPB使いの光る“Baianá”などキャッチーな楽曲は、ずっと普通に存在するメインストリーム系のドラムン勢に通じるかっこよさ。

 

PIRI & TOMMY 『Froge.mp3』 Polydor(2022)

ラウドLDN周辺における数少ないフィジカル作品は、“On & On”を含むこのミックステープ。00年代初頭っぽい甘酸っぱさのある歌唱とマイルドな浮遊感でドラムンベースやUKガラージ、ポップR&Bをソフトに聴かせる佳作だ。

 

LEE BANNON 『Alternate / Endings』 Ninja Tune(2014)

ジュークやトラップの熱も伝導してアンダーグラウンドでのジャングル再燃が囁かれたちょうど10年前ぐらい、NYの奇才が仕掛けた異形のドリルンベースは往時と現在のエイフェックスの間に浮かぶような不穏さがある。

 

DREXCIYA 『Neptune’s Lair』 Tresor(1999)

デトロイト・エレクトロの伝説によるファースト・アルバムの、こちらは新装リイシュー盤。ディストピア的で怪しい深海サウンドが当時のエイフェックスに与えた影響は現在も彼のスタイルに改めて作用しているのかも。

 

RICHARD SEN 『Dream The Dream』 Ransom Note(2023)

30年以上もロンドンで活動するDJが選曲したレイヴ文脈のコンピレーションで、90~94年のレイヴ・シーンで機能したテクノ/ハウス/ブレイクビーツが満載されている。新旧エイフェックスに通じる享楽と混沌の詰め合わせ。

 

BLACK DOG PRODUCTIONS 『Bytes』 Warp(1993)

ちょうど『Spanners』(95年)と併せてLPリイシューされたのでご紹介。エイフェックスと並んで90年代ワープのインテリジェント・テクノ路線を推進した大御所クルーの同レーベルでの初作。緻密な実験精神が投影された名作だ。