スクエアプッシャー最初期の音源、ステレオタイプ名義作が奇跡のリイシュー!
蛇は寸にして人を呑む――作品ごとに色調や角度を変えながら2024年の最新作『Dostrotime』に至るまでコンスタントに高水準なアルバムをリリースし、同じく昨年には傑作『Ultravisitor』(2004年)の20周年記念盤も発表して、その特異な才能を改めて見せつけてくれていたスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン。そうしたなかで、このたび新たに到着した音源集『Stereotype』は、彼がスクエアプッシャー以前からスクエアプッシャーだったという事実をまざまざと証明するはずだ。これは94年に自主制作の形で1,000枚だけプレスされたという『Stereotype E.P.』をワープが復刻したもので、その当時の彼はステレオタイプと名乗っていた。
振り返れば、スクエアプッシャーの名を広く知らしめたのは96年にリフレックスで出したファースト・アルバム『Feed Me Weird Things』であり、彼は同年にワープと契約することになるのだが、それに先駆けた95年に彼はスクエアプッシャー名義での初音源集『Conumber E:P』とデューク・オブ・ハリンゲイ名義での『Alroy Road Tracks』をスパイマニアに残し、さらには本名のトム・ジェンキンソン名義で『Crot EP』も発表していた。そうした名義の雑な多用ぶりを見ると、当初はスクエアプッシャーという名前もその選択肢のひとつに過ぎなかったことが推察されるが、ともかくステレオタイプ名義の楽曲はそれらよりもさらに遡った時期にひっそり世に出されていたのだ。
もともとメタリカが好きでスラッシュ・メタルに傾倒し、他にもジャズやファンクのバンドでもベースを弾いていたという75年生まれのトム・ジェンキンソンが、LFOを聴いてエレクトロニック・ミュージックに開眼し、レイヴにも出かけるようになったというのが90年代初頭のこと。先述の『Feed Me Weird Things』を完成させる頃にはジャズ要素も交えたドリルンベースや高速ブレイクビーツという〈スクエアプッシャーらしさ〉はすでに確立されていたわけで、その意味でも彼にとって最初期の記録(93年の録音とされる)にあたるステレオタイプの楽曲は、ティーン時代の彼が純度の高い興奮やプリミティヴな初期衝動を荒々しく刻み込んだ希少な成果物だと捉えていいだろう。

今回のリイシュー『Stereotype』には『Stereotype E.P.』のオリジナル・テープからリマスターされた全6曲を収録。16分を超える冒頭の“Whooshki”から直情的にビルドアップされていくサウンドのブッ飛んだ勢いに圧倒されること必至だ。聴く耳によっては、当時すでに時代の寵児として人気を博していたエイフェックス・ツインをはじめ、未分化なシーンで台頭していたブラック・ドッグやB12といった同時代のUK勢の名前が浮かんでくるという人もいるだろう。金属的な咆哮を放ちながらガバに直結する“1994”のハードコアな疾走感も凄まじく、レイヴ・フィーリングの強さがいま聴いても新鮮な印象を残す。
それ以降の、芸術が爆発するブレイクビーツの“O’Brien”も、ハードなフロア・トラック“Greenwidth”も、スペイシーなテクノの“Falling”も、清々しいまでに自由奔放。この騒やかな作法を以てステレオタイプと名乗るのは皮肉なのか何なのか、いろんなものが洗練された現代の表通りではお目にかかれない剥き出しの音塊はとんでもなくフレッシュだ。単純に〈幻の音源〉としての価値以上に、荒ぶるアイデアを粗削りな瞬発力で封じ込めたアッパーな痛快ダンス・ミュージック作品として純粋に楽しみたい。
スクエアプッシャーの近作。
左から、2024年作『Dostrotime』、2004年作の20周年記念盤『Ultravisitor (20th Anniversary Edition)』(共にWarp)