13年ぶりの本人名義アルバムは、変わらぬ〈エイフェックス節〉に溢れていた!
世界中が沸いた13年ぶりのアルバムは、極めてエイフェックス・ツインらしい音楽だった。〈らしい〉とはつまり、90年代を席巻した諸作と変わらぬ、彼の電子楽器への執着において。まだ鳴らされてない電子音、まだ打ち込まれていないリズム、それらを追求すること自体が楽しくて仕方がない……という極シンプルな心で成立しているアルバムだ。そのピュアな過程で“Come To Daddy”や“Windowlicker”のような、聴き手を驚かせてナンボ、という残虐さは自ずと切り捨てられたのかもしれない。いずれにせよ、機材のツマミを弄った時間の分だけ、作り手のメンタルは強く音に刻み込まれる。この個性は、これが初めてのリアルタイム体験となる世代にも、現行シーンの最注目株Arcaのそれと共に強く響くことだろう。
エイフェックスならではの、美しく、どこか心安らぐメロディと音色は、先行公開されたアルバム1曲目“minipops 67 [source field mix]”から堪能できる。BPM120.2のハウス・テンポのこの曲は、相変わらず4/4のキックは敬遠しつつも、低音とパーカッションの配置が冴えた肉感的なビートがいい。彼がずっと持ち続ける、ダンス・ミュージックへの欲求を自ら満たすようでもある(彼はリリースのない間も各国のフェス等でDJ出演は継続していた)。ほぼ同じテンポで幾分熱を帯びる2曲目“XMAS_EVET10 [thanaton3 mix]”浮世離れした美しさで、彼の新しい名曲と呼ばれそう。デビュー曲“Analogue Bubblebath”や、1stアルバムにおける“We Are The Music Maker”あたりも想起させられた。
序盤はそうした、いわば〈非ドラムンベース・スタイルの『Ricard D. James Album』〉といったトロトロの展開。中盤からアルバムは徐々に加速していき、クライマックスでBPM163にまでのぼりつめる。そして儚いピアノ独奏で幕を引く。キレイに纏めすぎな気もするが、初期アルバムと同様、何度も繰り返し聴いて楽しむのに適した構成だと思う。