矢沢永吉にとって初のフジロックは、果たしてホームなのか、アウェイなのか? ステージを観た上で、結論から言ってしまえば〈間違いなくアウェイではあったが、最後にはホームのようであった〉、である。

タイムテーブルに記された開始時間、ジャスト17時にGREEN STAGEにBGMが鳴り響く。まずはバンドとコーラス、さらにホーン隊がステージに登場し、主役を迎える準備を整える。もちろん、オーディエンスの雄叫びもその一部だ。

説明不要の出立ち、そう、スーツからベルトまで全身真っ白のコーディネートでキメた矢沢の登場だ。オープニングを飾ったのは“カモン・ベイビー”。キャロル時代の楽曲を野太いバンドサウンドで鳴らすと、こうも重心の低いロックナンバーとなってフレッシュに聴こえるのかと感動する。

途中「ホーンセクション!!」と矢沢のシャウトと共に突入したホーンパートは、苗場の山々を砕く勢い。1コーラス歌った直後には、伝家の宝刀、マイクスタンドのパフォーマンスも。出し惜しみ一切なしの真っ向勝負、それが矢沢の選んだ初のフジロックでのスタイルだ。

「フジロックでまたこうやってみんなに会えたよ! 今から矢沢見せます、一緒に行きたいと思います。ヨロシク!」――喜びを吐露するMCに続いて流れてきたのは、印象的なシンセのイントロから始まる“黒く塗りつぶせ”。時代を重ねるたびに骨太になっていくギターリフ、それに負けず劣らず進化を続ける矢沢のボーカルが苗場にこだまする。

続く“SOMEBODY’S NIGHT”がしっとりとGREEN STAGEを包み込む。「さっき調べたら、矢沢が39歳のときの曲だったみたいですね。この“SOMEBODY’S NIGHT”は〈大人の恋〉を歌ってます。〈子どもの恋〉じゃないんだよね……夏フェスでどうしても歌いたいと思っておりました」と選曲へのこだわりを口にする。つまりは、自分のファン以外にも聴かせたい自薦曲なわけで、そこには音楽に対する確固たる自信が見てとれた。

「あと1ヶ月ちょっとしたら僕は74(歳)になります! もうビックリするのに、海の向こうじゃ現役のロックンローラー、ミック・ジャガーから何からいっぱいいます。ストーンズにできて矢沢にできないわけないだろうよ? 言っちゃった(苦笑)!」

〈そんなこと言わなくたってわかってるよ!!〉と会場の誰もが叫びたくなったはず。50年以上のキャリアにおいて、有言実行を繰り返してきたにもかかわらずまだ自分に発破をかけるのか。矢沢永吉はまだまだチャレンジャーの立場にいるようだ。

ダンサー達も連れて華やかに盛り上がったキャロル時代の名ナンバー“ルイジアナ”、さらにリリース当時(94年)よりも深みが増した“アリよさらば”を披露した矢沢。雨の近づく曇天も、いつの間にか夕暮れのグラデーションを感じられる空模様に。

そして、アコギを持っただけで歓声が上がる会場に向け、“チャイナタウン”をしっとりと歌い上げる。彼の人生において転機となった場所、横浜/アメリカへの想いも込められた名曲だ。真っ向勝負と言いつつ、誰もが聴きたいと声を上げそうなナンバーは入れ込む。真のエンターテイナーの凄みを、彼のステージからは終始感じた。

しかし、ステージはまだ終わらない。むしろここからが本番だった。“止まらないHa-Ha”ではハットを被り、さらにギアを上げる。お馴染みのタオル投げも〈YAZAWA)タオルだけじゃない、他のアーティストのグッズタオルも宙を舞う。まさにフェスならではの光景だ。

手抜きなしの初フジロック、矢沢が最後に用意したのは“トラベリン・バス”。赤のYAZAWAタオルを背に羽織い、もう一段階ギアを上げブーストする。さらなるタオル投げにオーディエンスも矢沢のテンション同様、投げる高さが上がっていく。辺りを見回すと、長年のファン、初めて体験するリスナー、そして外国のオーディエンスまでが至福の表情をしている。初のフジロックでの真っ向勝負、矢沢と会場にいる皆で勝利を掴んだ、そんな光景が広がっていた。

バンドのジャムセッションに締めを任せ、ステージから去っていく矢沢。きっとそのまま車に乗り込んで苗場を後にしたに違いない。カメラで追わずともその後のストーリーまでわかるアーティストは、彼以外いない。

冒頭で述べたとおり、矢沢永吉にとって初のフジロックは、どれだけファンが集まってもアウェイなことに変わりはない。だが、登場した瞬間に見えたあの表情、完全にチャレンジャーとして望むフジロックのステージにワクワクしまくっているようだった。きっとデビュー当時から、果ては音楽にその身を捧げた瞬間から、チャレンジャーとしての興奮を彼はいつも抱いているのかもしれない。

1日経ったフジロック2日目でも、会場の至るところで「昨日の永ちゃんヤバかった」という声が聞こえてくる。矢沢永吉はフジロックを見事にホームにしてみせた。次そのホームに舞い戻るはいつなのか、今からワクワクしていよう。

 


SETLIST
1. カモン・ベイビー
2. 黒く塗りつぶせ
3. SOMEBODY’S NIGHT
4. ルイジアナ
5. アリよさらば
6. チャイナタウン
7. 止まらないHa-Ha
8. トラベリン・バス